橋口さんは急な出来事にキョトンとしていた。だが、それもそう長くはなかった。振り返ると山本さんがすぐそこまで来ていたからだ。
橋口さんは席を立ち逃げ出した。呆然を立ちつくす僕の目の前を、山本さんは通り過ぎ、橋口さんを追いかけた。橋口さんがイスをガンガン倒しながら逃げる。山本さんはその倒れたイスを蹴飛ばしながら追いかける。
二人は狭いオフィスをパーティションを挟んで走り回っていた。オフィスの中を3週すると橋口さんはオフィスから飛び出した。山本さんもそれを追いかけオフィスをあとにした。そして、僕はオフィスの中に一人取り残された。
一人ぼっちの時間はそれほど長くなかった。すぐに橋口さんと山本さんの声が聞こえた。オフィスの入り口を見ると、二人が見えた。
「仕事の話をしていただけですよ。」
「すまん。」
「どうしたんですか、本当に。」
「…。」
オフィスに戻ってきた二人はそれぞれ自分の席についた。橋口さんは乱れた息を整えるかのように、ゆったりと自分の席に座ると、ふー、と一息ついて僕に言った。
「どうしたん、山本さん?」
「朝からずっとあの調子なんですよ…。」