それにしても、今の電話での山本さんの態度にはビックリした。局長を尊敬しているとは聞いていたが、まさかここまでだとは。局長と電話している時だけまるで別人ではないか。
会社には局長という立場の人がいて名前を岡村という。天然パーマで額の中央に大きなホクロがある彼は現場の最高責任者である。山本さんは、局長からかなり信頼されており、若くして営業主任になっている。3年目にしてこの会社で営業で一番偉い立場である。
この会社では局長に気に入られれば天国、嫌われれば地獄である。そういう雰囲気が会社の中をいつも張りつめている。僕から見ると山本さんと局長は同じ種類の人間だ。そう、どこかに絶えず爆発の危険性を秘めている。勿論、僕はそんな局長に好かれるわけはない。いつでもトップにいないと気が済まない彼らは、自分の言うことを、はいはい、聞いてくれる人だけが好きなのだ。
彼らに嫌われた人達は給料を減らされたり、イジメられたりすることも過去にはあったらしい。少し前にそういう話を聞いた時は勿論かなり驚いたが、やはり実感はしてなかったのかもしれない。どうしても人間は体験しないと分からないことがある。所詮過去のこととどこかで思っていたかもしれない。しかし、今なら分かる。僕はこの空間では生きていけない。イヤ、生きていくべきでない。
今まで先輩に聞いた話、入社してわずか1週間で感じたこと、そして、今日出社してきてから起こったこと、僕の頭の中を入社してから見たいろいろな出来事が駆けめぐっていた。
一体この会社はどうなっているんだ。