何が起きているのか分からなかった。そこには山村さんだけでなく、大谷さん、住友さんもいたからだ。橋口さんは唖然としている僕に説明し始めた。
「去年の夏もこんなんあったって言ったやろ、その時もここに逃げこんでん。10階ってアキになっているやろ。」
「大丈夫やった?ケガない?」
「私、オフィスに入った途端、気づいてここに逃げてきてん」
「私はオフィス入ろうとした時、山村さんに会ってここにいっしょに隠れててん。その時、なかたにくん見えたけど、山本さんの近くすぎて声かけられへんかってん」
「1週間ぐらい前からおかしかったから、みんな心の準備だけはしてたんよ。」
みんなが一斉に話かけてきた。先輩も興奮していて同時に話しかけてくるので誰が話しているのか分からない。
「あっ、局長から山村さんにお電話ありましたよ。KSPに電話くれって言ってました。」
「あっ、さっき電話したよ。」
「局長はKSPに隠れているのよ。」
「そうそう、山本さんって局長のことすごく憧れているからね。やっぱりちょっと怖いんじゃないかな。」
「去年の夏はな、今より全然マシで山本さんは自分がおかしいこと分かっていたんや。」
「昨日、オフィスで局長と長いこと話をしていたの知らない?」
そう言えば、昨日の夕方山本さんと局長は随分長い間会議室にこもっていた。てっきり仕事のことだと思っていたが、実はそういうことだったのか。前兆はあったわけだ。新人の僕だけが気づいていなかったとは不運な話だ。
「これからどうするんですか?ずっとここにいるんですか?」
「いや、さっき局長に電話したとき、こっちに向かっている、って言っていたからもうそろそろこっち来ると思う。」
「局長が来たら山本さんも大人しくなると思う。ほんま、なかたにくん、えらい目にあったな。」
「いや、僕よりもナカガワさんもほうがもっとヒドイ目にあってましたよ。」
「そう言えば、あいつ何処いったん?」
「ナカガワさんは今日10時から打ち合わせのため朝早く出社していたんですけど、山本さんにからまれて散々な目にあってましたよ。10時すぎに脱出してましたけど。」
「ほんなら、その後はなかたにくん一人やったん?」
「そうですよ。マジでどうしようかと思いましたよ。」
会話が途切れなかった。みんながみんなマシンガンのようにしゃべっていた。