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「お前、ホモか!」クレイジーな上司が叫ぶ!

お前、ホモか!ブラック会社で悪魔が叫ぶ

僕たちの会話は橋口さんの一言で幕を閉じた。

「そろそろ、局長くるんちゃう。戻っといたほうがええやろ」

「うん、私はもう戻ろうと思っていたところやねん」

局長の愛人という噂の山村さんがそう答えた。

「じゃあ、オレとなかたにくんが先戻るわ。だから、みんな時間差で出社してきてや」

そう決めると、僕と橋口さんはオフィスに戻った。オフィスに戻ると局長はまだ来ておらず、山本さんもまだ帰ってきていなかった。もし、山本さんに何か言われたら何て答えよう、と思っていた僕は内心よかったと思った。

僕と橋口さんは会話もせず、局長がくるのを待った。僕はふと、社長の存在を思いだし、社長室をこっそり覗いた。社長はいつものように新聞を読んでいた。いつもマイペースな彼には感心させられる。彼はオフィスに誰もいなくなっても多分気がつかないだろう。

10分ぐらい経った時、オフィスの入り口に人影が見えた。誰が来たのかな、と思っているとそれは山本さんだった。僕たちはそれが山本さんであることに気づくとすぐに、モニタに向かった。スタスタという足音がだんだん大きくなる。オフィスに入ってきたようだ。足音はどんどん大きくなり、気づくと橋口さんの横に山本さんが立っていた。橋口さんはモニタを見て作業を続けながら、わざとらしく山本さんに言った。

「どこ行っていたんですか?」

しかし、橋口さんは顔を上げて山本さんの顔を見るとすぐに自分の発言を後悔していた。そう、山本さんはまた正気ではなかったのだ。山本さんは肩を大きく上下に揺らしながら橋口さんを見下ろしていた。橋口さんは山本さんのほうを見上げた状態のままだった。はーはー、という呼吸音が止まり、山本さんから出た言葉はまたもや僕には理解できないものだった。

「お前、ホモか!」

僕は「ホモ」という単語を理解できなかった。まさか、お前同性愛者か?なんていきなり聞かれるなんて思ってもいない。 橋口さんは緊張の糸が切れたようで、何を言っているんですか?というような顔をしながら山本さんに尋ねた。

「ホモって何ですか?」

そう尋ねられると、山本さんは顔を赤面させて恥ずかしそうに答えた。

「ホモって言ったらホモやん」

僕は山本さんの変貌ぶりにこの人は多重人学者だと思った。彼は別人だった。今までの引きつった顔がウソのようにほっぺたが赤らんでいる。僕たちに顔を合わせるのさえ恥ずかしそうにしている山本さんに、僕たちはどうしたらいいのか分からなくなった。かける言葉も見つからなかった。一体誰がこの雰囲気から脱出する第一手を打つのだろうと思っていたら、タイミングよく山村さんと大谷さんが出社してきた。

「おはよう」

山本さんは場が悪そうに自分の席に戻っていった。山村さんと大谷さんはいつにない山本さんの雰囲気を不思議そうな目で見ると、僕たちに目で合図した。僕たちは、さあ、と首を傾げて席に向かった。

その後の山本さんは本当に別人のようだった。静かに席に座っていた。オフィスの中は静まり返り、僕たちはただ局長が来るのを待っていた。