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社長室のドアが開き、悪魔と目が合う

社長室のドアが開き、悪魔と目が合う

彼らは社長室に入って間もなく、口論を始めたようだった。張りつめた雰囲気と大きな声は壁越しにヒシヒシと伝わってくる。僕は一歩も動けず、社長室の壁を見ていた。ふと、あるはずの壁が透けて、社長の胸ぐらを掴む山本さんが見えたような気がした。もしかしたらこれは夢なんじゃないだろうか、と疑った時、現実だと知らせんばかりにタイミングよく電話が鳴った。

ジリリリリリン、ジリリリリリン、ジリリリリリン

入社して以来、まだ電話を受けたことがなかったので、少し躊躇した。電話応対も教わったことがなかった。しかし、僕以外に電話にでれる人はいない。でないわけにはいかなかった。僕はゆっくり大きく深呼吸して、小さな声で、アソシでございます、と呟いてから受話器をあげた。

「はい、アソシでございます。」

「あっ、わしや、局長やけどな、君誰や?」

「なかたにです、おはようございます。」

「あのな、そっちに山村おるか?」

「えー、山村さんはまだ出社してないです。」

「そうか、多分な、便所のへんに隠れていると思うから、探してきてくれ」

「えっ、トイレにいるんですか?」

「おそらく、そうやと思う。せやから、見つけてきて、電話かけ直してもらうように言ってくれ、今わしKSPにおるから。ほんじゃ、お願いするわ。」

ガチャーン、局長はそう言い残して電話を切ってしまった。局長がなぜ、山村さんがトイレにいることを知っているのかは分からなかったが、ともかく僕はこの場から逃れるためにもトイレに行くことにした。山本さんがいないとはいえ、この場所にいることはどう考えても危険なので、オフィスから脱出する理由が出来たのはある意味かなりラッキーだった。

僕が外出すると、社内には誰もいなくなってしまうが、そんなことは関係ない。僕は山村さんを探しに行くことに決めた。机の上を簡単に整理して、メモ帳に、「山村さんを探しに行きます なかたに」と書き残してトイレに向かおうとした。

しかし、その時、最悪なことに社長室のドアが開いた。あまりのタイミングの悪さに呆然とした。音もなく、静かに開いたドアから山本さんが出てきた。出てきた瞬間に僕と彼は目が合った。彼は、お前どこに行くつもりなんじゃ、という無言の言葉を僕に浴びせた。

僕たちはお互いに目を合わせたまま、その場に少しの間固まっていた。