働き方インタビュー 015 / 似顔絵師 ちばけいすけさん
過去にインタビューした佐々木知子さんの旦那さんです!ドリカムの似顔絵を見たときに、話を聞いてみたいと思ってメールしてみました。
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ちばけいすけ プロフィール
ちばけいすけ、星の子プロダクション所属の東京の似顔絵師
(画像の掲載許可をいただいています。)
もとエンジニア
では、よろしくお願いします。経歴を見せてもらったんですけど、もともと技術の人なんですね?
そうですね。大学を出てから20年ぐらいは会社員で、プログラマでした。最初に就職した会社がCGプロダクションで、そこで、3Dコンピューターグラフィックのソフトウェアを開発してました。
大学もコンピューター関係だったんです。漫画も好きだったんですが、そっちでプロになるのは難しいと思って、コンピュータでアニメに関係あるところに入ったんです。
その会社ではコンテンツは作ってないんですよね?
はい。朝から晩までソフトウェアを開発してました。
20年前ってCGを使うシーンってそんなにないですよね。映画とかCMですか?
CMもないです。30年ぐらい前ですから、日本の先駆けだったと思います。ご存知ないかもしれないですけど、1983年に、劇場用アニメのゴルゴ13が公開されたんです。セルアニメなんですが、一部コンピュータグラフィックを使っていて、そのCGを作る会社にバイトで入ってたんです。当時は、全部手作りです。コンピューターも手作りでした。
作ってたソフトウェアってモデリングツールですか?それとも、アニメーションも出来るんですか?
当時はコンピュータはすごく高くて、1人1台じゃなくて、会社に1、2台なんです。ソフトウェアは、モデリングとアニメーションは別々なんですが、ツールといっても、ほとんどのデータ入力は、端末から数字を打ち込むだけなんです。
なるほど。
当時のモデリングって電卓だったんです。デザイナーがラフを描くんですよ。それを方眼紙に清書して、座標を拾って、キーボードに打ち込むんです。
座標を?ということは、ポリゴンの数だけ座標を入力するんですか?
そうです(笑)。
おお、すごいな。僕が社会人になったときも、まだパソコンは1人1台じゃないんですけど、その時代って、ちょっとイメージできないです。かなり先駆けですね。
かなり無茶な仕事でしたね(笑)。でも、すごい楽しかったんです。プログラムは天職だと思ってたし、朝から晩までやっても苦にならなかったんです。パズルを解くのが昔から好きで、プログラムってパズルみたいでしょ。似顔絵を描くときも、パズルをやるような感じがありますよね。
そうですね。
目を三角にしたら似るかなとか試行錯誤して、すごいそっくりになったときって、パズルが解けたときに近いと思いますね。
確かにそうですね。ソフトウェアの開発してたときは、似顔絵は描いてなかったんですよね?
いや、描いてました。似顔絵歴はコンピューター歴より長くて、高校生のときから雑誌に投稿してました。
明星の似顔絵コーナーに投稿
雑誌の投稿にハマってたんですか?
はい。明星に投稿してました。当時の明星の似顔絵コーナーはすごいレベルが高かったんですよ。1970年後半から80年前半は、西岡りきサンが担当してて、すごい気合が入ってたんです。添削までしてくれて、今の週刊朝日の特待生になってる人が常連で投稿してたんです。
明星ってアイドル雑誌でしょ。そんなイメージないですね。
今はアイドル雑誌ですが、昔はすごいマニアックだったんです。音楽専門誌もそんなになかったし、新曲のレビューとか、作家のインタビューとかがあって、ミーハーじゃないマニアックなファンが読んでも見応えがある雑誌だったんです。
雑誌の投稿で、コメントをもらうとかなかなかないですもんね。
そうですね。しかも、編集部の人でなくて、専門家がコメントするので、すごい的確なんです。
謝礼はあるんですか?
ないです。載っても連絡もないです(笑)。
わははは。そう考えると、週刊朝日ってすごいですね。それは学生のときなんですよね?
そうですね。
社会人になって、ソフトウェア開発してても投稿してたんですか?
はい。あまり外出するのが好きじゃなかったので、休みの日に、実家でずっと描いてましたね。アイドルが好きだったので、明星を買って、アイドルの似顔絵を描いて、明星に投稿してました(笑)。
わははは。描いてたのは似顔絵だけですか?
そう。似顔絵以外は興味なかったんです。だから、似顔絵以外の絵は下手ですよ。
そんなイメージないですけどね。
もっと絵がうまかったら、イラストレーターを目指したかもしれないですけど、無理だと思ったからエンジニアを選んだんです。
エンジニアから似顔絵師にキャリアチェンジ
でも、エンジニアから似顔絵師にキャリアチェンジするんですよね?
そうですね。20年ぐらいエンジニアやってたんですが、40歳のときですね。40歳を過ぎるといろんなものがいっきに来るんですよ。目が疲れやすいとか。
体力の限界ってやつですか?
そう。あと、頭のほうも新しいことを吸収する力が弱くなったな、って感じたんです。コンピューターの世界っていろいろ変わるじゃないですか。
30後半には感じなかったんですか?
そうですね。私は40歳で急に来ましたね(笑)。それに、プログラムってだんだん誰かが作ったものを組み合わせるだけになってきたでしょ。パズル的な楽しさがなくなってきたので、それもやめた理由の1つです。
なるほど。開発は簡単になりましたよね。それで、面白くなくなったんですね。興味深いです。
まあ、体力が落ちてきたのが大きいですが(笑)。
僕も、もうすぐガクッと来るかもしれないんですね。怖いですね。でも、その時に、チャレンジな選択をしたんですよね?
よく言われるんですけど、自分としてはそんなつもりはないんです。選択の余地もなかったので、迷いもなかったですし。他にできそうなものを探したら、似顔絵しかなかったんです。
それまではやったことなかったんですよね?
ないです。ただ、大学のときは漫画研究会だったので、学祭のときは似顔絵を描いてたんです。いわゆる席描きですね。
本当に素人の絵だったんですけど、それが楽しかったんです。漫画研究会だったけど、漫画はほとんど描いてなくて、似顔絵のときだけ盛り上がってたんです。卒業してからも、学祭のときは、現役に混じって、描いてましたから(笑)。
わははは。
それだったら仕事にしてみようと思って。
それですぐ会社を辞めたんですか?
いや、すぐには辞めれなかったです。社員4人の会社だったので、1人減ると大変じゃないですか。だから、出勤を半分にしてもらったんです。1年半ぐらい続けて、それで辞めたんです。
じゃ、その1年半は会社でソフトウェア開発をしつつ、似顔絵を描いてたんですか?
そうですね。
星の子プロダクション
どこで描いてたんですか?
星の子プロダクションです。
そうか。星の子だったんですよね。似顔絵の会社として有名なところなんですよね。会社にいるときから、星の子に入ってたんですか?
そうです。会社を辞めることを決めたときに、面接を受けに行ったんです。似顔絵関係のサイトを見るのは好きだったので、星の子プロダクションという似顔絵の会社があるのは知ってたんです。
ということは、1年半は2つの組織に所属してたんですね。元気ですね。
いや、それぞれが半分なので、全体の労働量は変わってないんです。
いつまで星の子プロダクションにいたんですか?
まだ星の子ですよ。
そうなんですか。よく分かってないんですが、プロダクションに所属しながら、勝手に活動していいんですか?
一般の人を描く仕事は事務所を通さないといけないんですが、有名人の似顔絵や普通のイラストは自由にやっていいんです。
なるほど。じゃ、今でも一般人を描く仕事は星の子を通してるんですか?
はい。イオンみたいなショッピングセンターとか常設の現場があるので、そこのシフトが送られてくるんです。普段はそういう場所で似顔絵を描いてます。
そうなんですね。ええと、似顔絵師って、似たようなタッチの人っているじゃないですか。星の子プロダクションの中には、グループとかあるんですか?
いや、ないです。星の子は画家の個性を尊重する感じなんです。逆に言うと野放し(笑)。だから、画風を統一するという考え方はないですし、グループに分かれているわけでもないですね。ただ、やっぱり星の子らしいっていうスタイルはありますね。私は違いますが(笑)。アニメっぽい可愛らしい感じなんです。
ちばさんの絵ってカワイイじゃないですか?
そう言っていただけると嬉しいんですが、星の子のホームページを見て頂くと分かりますよ。私のタッチは主流じゃないです。
僕はそういうプロダクションに所属したことないので、よく分からないんですが、野放しということは、師匠がいたり、教わるという感じではないんですか?
最近は、最初の研修がしっかりしてるみたいですけど、私のときは、似顔絵については何も教えてくれなかったですね(笑)。だから、現場で他の人のを見ながら学びました。
見て学べと(笑)。入った時点ではスキル差とか人気差が出ますよね?
はい。当然、差は出ますよ。それは入ったときだけじゃなくて、ずっとです。
それは、お客さんのウケが良い人に仕事が集まるってことですか?
もちろん、そうですね。
じゃ、ウケが悪いと克服しないと仕事が減るってことですか?
そうですそうです。
吉本みたいな感じですね。マッチする仕事があれば紹介するけど、生活を保証してるわけじゃないんですね。
そうですよ。毎日行く現場はあるんですが、お客さんが来るかは分からないでしょ。3人ぐらい同じ現場に入りますし、お客さんは3人から選ぶわけですから。
そうか、客の取り合いになるんですね。成果報酬なんですか?
そうです。
そういうことか。だから、他の人のブースが流行ってたら、ブースのレイアウトも真似するし、似顔絵のタッチも影響を受けるんですね。シビアな世界ですね。みんなライバルなんですね。
そうですね。シビアですね。プライベートでは遊びに行きますが、仕事では商売敵なんです。
ですよね。じゃ、こいつはやりにくいなあ、とかもきっとあるんですよね?
それはあります。正直あります。この人と一緒だと今日は客はゼロかもしれないとかね(笑)。
絶対あると思う。師弟関係とかないんですか?
明確にはないけど、明らかに影響を受けてる人はいますね。
まあ、そうでしょうね。辞める人も多いって言ってましたが、そういう人って自由に動きたいからなんですか?
いろんな理由があると思いますけど、売れてると事務所にしばられるのがイヤとかあるだろうし。独立したほうがもっと客を見つけられると思う人もいると思います。
なるほど。
似顔絵の描き方
似顔絵はパソコンで描いてるんですか?
いや、最初は紙に描いて、スキャンしてパソコンで色を塗ってます。
じゃ、線はアナログなんだ。
はい。紙に描いた線を使ってます。タブレットは苦手なので、使ってないです。私は紙に描くのが好きなんです。原画は小さめで、拡大してスキャンするんです。そうして出来た荒れた線が好きなんです。
なるほど。あれは鉛筆で描いてるんですか?
パステル色鉛筆っていうのを使ってます。芯がパステルみたいなんです。
それを拡大したらああいう線になるんですね。
そうなんです。かすれたような線が好きなので。
いいですよね。僕はこの線が好きなんですよ。だから、どうやって描いてるのか興味あったんです。
イラストレーターの線にすると、本当にそっけない絵になると思うんです。だから、線の味で誤魔化しているんです(笑)。
印象はかなり変わるでしょうね。じゃ、パソコンは着色用なんですね。フォトショップですか?
フォトショップは高いから持ってないです。10年以上前に買ったペイントショッププロを使ってます。当時、ウインドウズ95だったんですが、ウインドウズ7でも奇跡的に動いているんです(笑)。昔は、紙に描いてスキャンしてただけなんですが、だんたん色を塗るのが面倒になってきて、パソコンを使うようになったんです。
パソコンで色を塗るときってどうやってるんですか?
無機質にしたくないのでいろんなテクスチャーを使ってます。
アナログっぽくていいですね。
そうですね。アナログ感を出したくて。
じゃ、描き方は昔からあまり変わってなくて、デジタルを効率的に使うようになってきてるという感じなんですね。
そうですね。
席描きのときは?
パステル色鉛筆は使えないです。こすると消えちゃうので。線はダーマトグラフで、基本的に色鉛筆なんですが、色は水彩です。
やっぱり線が命なんですか?
みんなはどうか分からないけど、私はわりと線にはコダわるほうですね。現場だとなかなか難しいけど。
いろんな画材を使ってこれに辿り着いたんですか。
そんなにいろいろやってないです。アマチュアで投稿メインのときも、絵の具が面倒だったんです。今は、現場だと水彩のほうが早いので使いますけど、家だと片づけるのが面倒でしょ。だから、マーカーとか色鉛筆なんです。絵の具は苦手なので、できれば使いたくないです。
趣味と仕事の違い
入りたてのときって趣味でしょ。仕事にすると、スタンスが変わりましたか?
やっぱり仕事で描く似顔絵は別物だと思いましたね。
でも、学園祭のときも描いてたでしょ。違うんですか?
学祭は、1人100円だったし、お客様もお祭りのノリだからクレームもないですからね。それが1500円とか頂くと、「似てない、可愛くない」とか言われるようになるわけです。だから、ちょっとかわいく描いてあげたりしますね(笑)。
なるほど。
似てるとか面白いよりも、お客様が喜ぶ似顔絵を描かないといけないと変わりましたね。
やっぱりみんなそういうスタンスなんですか?
うーん。人それぞれですけど。現場で、他の人が描いてるのを見てると、似てなくていいの?って思う時がたまにあるんです。でも、お客様はすごい喜んでたりしてますからね。やっぱりカワイク描いたほうがいいのかなって思うじゃないですか。そこは未だに悩みますね。
なるほど。まわりの似顔絵師やお客さんの反応で、イラストも変わっていくんですか?
いや、有名人の絵を描くときは変わらないです。
席描きは?
やっぱりカワイク描くほうがお客さんが集まるので、売上が下がってくると、カワイクしようって思うんです。でも、最近は逆に、もうちょっと自分らしく描いたほうがいいかもしれないと思っています。
なんでなんですか?
絵も急にうまくならないし、悩んで、ビジネス書を読んでみたんです。そうすると、みんなターゲットを絞れとか、得意分野でやれって書いてるわけですよ。
わははは。
そして、やっぱり自分しか描けない絵を描くほうがいいのかなと思うようになりましたね。だから、本当はもうちょっとデフォルメしようと思ってるんですが、まだなかなか勇気が出ないですね(笑)。
ブランディングとかマーケティングを意識しだしたのは、星の子に入ってからですか?
いや、最近ですよ。一昨年ぐらいかな。その前までは、ビジネス書なんて読んだことなかったです。
そうなんですか。似顔絵師がマーケティングの本を読んでるのが興味深いです。
そうですか(笑)。いやー、どうしていいか分からなくなったんですよ。当時たまたま、もしドラを読んだんです。そしたら、結構面白くて。それで、ドラッガーのマネジメントを読んで、マーケティングや接客の本とかも読んだんです。
それで、ターゲットを絞ろうと思ったんですよね。でも、ちばさんの絵は出来上がってるんじゃないんですか?
いや、お客さんを描いてる絵はネットにはあまりアップしてないんです。結構こびてますよ(笑)。
わははは。ネットにアップされてないなら、僕は見たことないですね。でも、サービス業だから、顧客満足を考えるのは当然だと思いますよ。
でも、みんながみんなキラキラのカワイイ絵を描かなくてもいいと思うんです。そうじゃない需要もあると思うので。
でも、僕の意見ですけど、ちばさんの芸能人のイラストは一般受けもすると思いますよ。僕はドリカムの似顔絵が好きなんです。あれはめちゃくちゃいいじゃないですか。ああいうデフォルメは一般の人にも喜ばれる気がしますけどね。
ただ、すべてのお客様をあのレベルにする力はまだないですね。1人に3日もかけられないし。たまに、いいモデルに巡りあって、面白い絵が描けるときもあるんですけど、まだ10人に1人ぐらいなので、それをもっと増やしていけたらと思いますね。
確かに席描きは時間がないですもんね。
似顔絵作品
今日は一応作品を持ってきたんです。
おっ、ありがとうございます。
これは、吉本の似顔絵コンテストで入選していたキュートンですね。これもいいですよね。いま、やってるんですよね?
はい。2012年の4月から2013年の3月までやってて、毎月、優秀賞が発表されるんですけど、そこで、このキュートンが選ばれたんです。最終的には、12点の中から最優秀が選ばれるんです。
毎月出してるんですか?
いま3つ出して、キュートンが当選、2つが落選です…。
吉本のルールは分からないですが、入選は1人1回かもしれないですね。でも、総合優勝いけるんじゃないですか?
いけたらいいんですけどね(笑)。これは、今年の5月にやった落語をテーマにしたグループ展の時のなんです。デジカメに集合写真が入ってたので、暇なときに描いたんです。
すごいな。これだけ描くの大変じゃないんですか?
まあ、趣味なので(笑)。これは同業者の似顔絵ですね。
犬ケルさんですね。お会いしたことありますけど、似てますねえ。
これは似顔絵大会で、描いたやつですね。
kunikazu.さんですね。フットサルでご一緒したことがあるんですが、雰囲気がすごい似てます。そういえば、よく横から描いてますよね?
横顔は好きですね。みんなが描いてるともう正面顔だと面白くないでしょ。現場に行くと、同業者と横に並んで描くので、暇なときに描いちゃうんです(笑)。
そっか。だから同業者は横顔が多いんだ。
これは、線はパステル色鉛筆なんですが、それをコピーしてコピックで色を塗って、切り抜いて、色紙に貼ってるんです。
そうなんですか。えっ、ちょっと待ってください。これって席描きでしょ。芸能人とタッチが同じじゃないですか。
これはお客さんじゃなくて、同業者だからです。お客さんにこういう風に描く勇気はまだないんです。
そうなのかあ。これでイケると思いますよ。喜ばれるんじゃないですか?
モデルによってはできそうなんですが、描きにくい人もいますからね。あと、時間もかかりますね。
そっかそっか。スピードか。でも、僕はこのタッチでいってほしいですねえ。
そうですね。このタッチで商売になるのが理想ですね。
時代を超えて残るものが描きたい
今朝、妻の知子と話してたんですが、中谷さんが選ぶ人って共通点がありますよね。中谷さん自身もシンプルに似せることにこだわってるし、出てる人もシンプルな方が多いですよね。
そうですか。シンプルなのが好きですね。でも、偏ってるのもよくないので、いろんな人に話を聞きたいんですけどね。席描きの人とか、似てないけどカワイイ人とか、いろんな人がいますから。ただ、スタイルは何であれ、やっぱシンプルなほうが好きですね。
時代を超えてカワイイものってだいたいシンプルですよね。新しくはないけど、いつまでたっても残ってるみたいな。僕もそういう絵が描きたいです。
確かに、僕がお会いする人は「シンプル」ってキーワードが出る人が多いですね。
アメリカンスタイルのカリカチュアとかは?
ええと、よく分からないけど、話を聞きたいです。まだ、カリカチュアの人はインタビュー出来てないんです。
この前のISCAで優勝したのが、渡辺孝行さんっていうんです。今回はすごい気合が入ってて、優勝を狙いにいってるのが分かりましたね。
あ、お会いしたことないんですが、メールのやり取りをしたことありますよ。あの方が優勝したんですか?
そうです。
すごいー。機会あれば、ポリシーとかコダワリを聞きたいですね。絶対いろいろ考えてそうでしょ。また違う考え方に触れられそう。
そうですね。みんなコダワリがあると思いますね。
似顔絵師の方って、描くスタイルってそれぞれ違うでしょ。違うスタイルの人と議論になったりしないんですか?
んー、ならないですね。傾向が違う人とは深い話をあんまりしないですね。それに、人の絵を批判したりする人もあんまりないですね。
いや、批判しなくてもいいと思うんですけど…。やっぱ、方向性が似た人がグループになるんですね。まあ、会社でも同じですもんね。
似顔絵は写真よりその人らしい
小学生の時に、和田誠さんの似顔絵を見て衝撃を受けたんです。写真と全然違うのに、写真よりその人らしいんです。
それって本当にすごいことですよね。僕は、写真と似顔絵ってすごい関係してると思ってて、美術史とか詳しくないんですが、教科書に載ってるエライ人の絵って肖像画でしょ。
貴族とかですか?
そう。ああいう肖像画を描いてた人ってイラストを描く仕事の中で、当時は身分が高かったと思うんです。でも、写真が生まれて、誰でも撮れるようになって、そっくりに描くことの価値が下がってしまって、人を描くということが多様化してきたと思うんです。そんな中で、デフォルメした似顔絵を見て、写真より似てるって思ったのはすごい面白いと思うんです。
最初に本当に衝撃で、特殊な能力を持った人だけができることだと思いました。ただ、カリカチュアは大昔からあったんじゃないかと思うんです。レンブラントの時代でも、仕事でリアルな肖像画を描いてる人だって、「この間、伯爵を描いたけど、こんな顔だったよ」ってデフォルメした絵を同業者に見せて遊んでいたと思うんですよね(笑)。
なるほど(笑)。
原始時代とかって多分デフォルメだったんじゃないかな?壁画の動物や人間の絵ってリアルじゃないですよね。
たしかに。そう言われると、確かに記号的ですね。
パースとか無視した記号みたいな絵が多いですよね。だから、最初はカリカチュアだったけど、だんたんリアルになってきたんじゃないかな。
そこで言うカリカチュアってどういう意味なんですか?記号的ってこと?
ええと、まあ、カリカチュアのコトバの定義は人によって違うみたいですけど、私は、写真のようにリアルに描くんじゃなくて、特徴を誇張したり、特徴じゃないものを省略したりして、写真より本質を捉えたモノ、写実よりその人らしさを表現した絵のことと定義していますね。
僕はカリカチュアをよく分かってないんですけど、ちばさんの絵はカリカチュアではないですよね?
いや、私はカリカチュアと思ってますよ。
ああ、そうなんですか。もっとグニャってなってるのがカリカチュアだと思ってた。
それもカリカチュアだけど、写真のようでなければカリカチュアだと私は考えていますね。
そういう意味では、似顔絵師はみんなカリカチュアって考え方なんですか?
そうですね。写真的な似顔絵以外はみんなカリカチュアだと思ってます。
なるほど。そういう考え方もあるんですね。僕は、肖像画と似顔絵は全く違うと思うんです。
そうですね。でも、写真がなかった時代は肖像画も美化して描いてると思いますね。
なるほど。確かにそうでしょうね(笑)。
まとめ
いろいろお話が聞けて楽しかったです。ありがとうございます。吉本の似顔絵コンテンツで大賞になったら仕事くるんじゃないですか?
なったらね(笑)。吉本さんから来たら嬉しいんですけどね。
僕の好みでいうと、今のところ、ちばさんのキュートンがダントツでいいと思います。現場では難しいのかもしれないですけど、僕はぜひ、今のタッチでいろんな似顔絵を描いて欲しいですね。
そうですね。
今日は長い間、ありがとうございました。
いえいえ、こちらこそ。インタビュー楽しみにしてます。
2012年12月12日(水)(神保町のらくごカフェにて)
あとがき
犬ケルさんとkunikazu.さんの似顔絵を改めてよく見てみると発見がありました。僕はこのモデルの2人とお会いしたことあるんですが、雰囲気がすごい似てるんですよ。でも、写真と比べると、見た通りを描いてるわけでもないでしょ。「似顔絵は写真よりその人らしい。」っていうフレーズがすごい印象に残ってるんですが、まさにこういうことなんでしょうね。
奥さんの佐々木知子さんも「内面も似ている絵を描きたい!」とおっしゃってましたが、同じことですね。 僕の似顔絵は、見たものをシンボル化するんですが、ちばさんの場合、違うカタチにすることもあるような気がします(勝手なイメージですが)。たとえば、丸いものを、四角く描いて、似させるとか。そう考えると、元エンジニアのちばさんには、もしかしたらそこにもロジックがあるような気がしてきました(分からないですけどw。)。 モデルと似顔絵が並んでる写真を見て、こんなことを感じました。僕がモデルの人とお会いしたというのもあると思いますが、面白いですね。
描いてもらった似顔絵
翌日に似顔絵が送られてきたのですが、なんと横顔でした!みんなに描いてもらって分かるのは、僕はアゴが発達してるようです(笑)。