働き方インタビュー 018 / 似顔絵作家 小河原智子
今回は、星の子プロダクションの小河原智子さん。本もたくさん出していて、似顔絵業界では誰もが知ってる方。業界のパイオニアとして見てきたこと、感じていることをお聞きしたくて、彼女の似顔絵教室にお邪魔してきました。1人のクリエイターとして、星の子プロダクションの役員として、どんなことを感じているのでしょうか?
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小河原智子プロフィール
似顔絵作家 小河原智子。メディアに出演多数してて、本もたくさん出しています。「ポジション式似顔絵上達法」の本は僕も昔に買いました。
- 国際似顔絵大会 (National Caricature Network) 優勝
- TVチャンピオン 似顔絵選手権 優勝
- 読売新聞似顔絵大賞 受賞
- NHK趣味悠々 「簡単そっくり似顔絵塾」 講師
- 似顔絵スクール星の子主任講師
- 東京カルチャーセンター通信教育講座 講師
初個展前で忙しそうでしたが、快く承諾いただき、似顔絵教室の見学後にインタビューさせていただきました。それでは、長編始まります!
最初は楽しむ余裕はなかったけど、いろんなご縁で似顔絵を描き始めました。
どうも、はじめまして。今日はいっぱい聞きたいことあるんです。よろしくお願いします!
今日初めてお会いして、部屋に入って来た瞬間に、この人はすごいたくさん喋る人なんだなと感じました(笑)。
わははは。否定はしませんが、聞き役として頑張りたいと思ってます(笑)。小河原さんって似顔絵イラストレーターって名乗ってるんですね?似顔絵師っていう人もいますけど。
「似顔絵師」はピンと来ないのよね。最近は、似顔絵作家が多いかな。
そうなんですね。どういう経緯で似顔絵を描き始めたんですか?
もともとイラストを描く仕事をしてたのですが、結婚して子供を生んでからは、なかなか復帰できなくて、たまにイラストのお仕事を頂く感じだったんです。
そうかあ。そういう時代なんですね。
そうそう。それで、学生時代の友達に中村順子さんという方がいたんですが、彼女のお父さんが東京新聞で似顔絵を描いてる中村伊助さんという方で、練馬で似顔絵教室を開いていたんです。 前々から「遊びにおいで」と言われてたので、仕事もあまりなかったので、子供を連れて、似顔絵教室に遊びに行ってたんです。それで、たまに似顔絵イベントに呼ばれるようになったんです。
じゃあ、描きながら経験を積んでいったんですね。
そうですね。似顔絵教室で練習はしてたけど、仕事になるとは思ってなかったんです。いろんな縁でやりはじめた感じですね。
楽しかったんですか?
うーん。実はそんなに楽しくなかったです(笑)。だから、2年ぐらいは怖くて断ってました。楽しむ余裕がなかったんです。でも、イラストで復帰しようとしても仕事がないので、これは慣れるしかないと思って、児童館に行って無料で子供を描かせてもらって練習したんです。子供のほうがまだ目をあわせられたんです。大人は怖くて(笑)。ドキドキしちゃうんです。
今からは想像つかないですね(笑)。
いえいえ(笑)。2年ぐらいは児童館で描いてましたね。ちょうどその時ぐらいに、星の子プロダクションの社長の秋久がサンシャイン60に営業して似顔絵を描く許可をもらったんです。彼も伊助さんの教室に通ってたんです。
あのー、サンシャイン60って何ですか?
池袋にあるビルです。当時、日本で一番高いビルだったんです。もう30年前ですね。そこの展望室で、似顔絵を描く許可が取れたんですけど、描く人がいなかったので、伊助さんの教室で勉強している人に声をかけてて、私にも声がかかったんです。
へえ。
それで私を含めて3人で描き始めたのが似顔絵を仕事にするようになったキッカケなんです。
すごい縁ですね。
中村さんと伊助さんと秋久さん。みんな御縁ですね。児童館で慣れてきたときに、声がかかったので、タイミングがピタっとあって、いろんなことが解決したんです。
伊助さんの教室に行くまでは似顔絵は描いてなかったんですか?
描いてなかったんですが、よく考えると、昔から顔には興味あったんだなと今では思うんです。
どういうことですか?
私は武蔵野美術大学で油絵をやってたんですが、途中で版画研究科に入ったんです。それで、その頃から、デビットボーイとかマイケルジャクソンとか有名人を版画にしてたんですよ。
なるほど。仕事では描いてなかったけど、顔には興味があったんですね。
そう思います。風景とかじゃなくて、顔がモチーフだったから。振り返ると好きだったんだと思う。
その池袋で描き始めたのが星の子プロダクションなんですか?
はい。でも、その時は、グループ星の子と言って、会社ではなかったんです。
それがどんどん大きくなって会社になったんですか?
そう。やってると、やりたいっていう人が出てきたんです。それまでは、イベントで描いてる人はいましたけど、常設で描いてるのってなかったんですよ。だけど、毎日やってると、いろんな人が来て、「どうやったら似顔絵を描けますか?」ってよく言われるから、じゃ、職場を増やせばいいんだなって思ったんです。
へえ。
それで、その時にサンリオのピューロランドができたんです。知らないかな?ディズニーランドほど大きくないけど、八王子にあるテーマパークなんです。
行ったことないですけど、知ってますよ。
そうそう。そこで、ピューロランドで描きたいと思って営業したんですけど、大きいところに入るには、やっぱり会社じゃないとダメで、それで会社にしたんです。
ああ、なるほど。
営業がしたいわけじゃなかったんですけど、描きたい人がどんどん来るんですよ。うちの社長は、やりたい人がいるなら営業するよって感じなので、それで増えていっちゃって、今があるんです。
なるほど。
似顔絵は観光のおまけじゃなくなってきてる
今って観光地で描くのって当たり前ですけど、当時、なんで高いビルで描こうと思ったんですか?
社長は岡山の人なんです。だから、地方の人が東京に来たら、やっぱり観光地に行くだろうって自然に思ったんだと思います。
観光地のほうが、集客しやすいと思ったんですか?
はい。当時はそう思ってたんです。
えっ、今もでしょ。
いや、今はもう変わってきてる、と思います。昔は、お土産にちょっと描いてもらおうっていうノリがほとんどだったんですが、今は、好きな作家さんに描いてもらうために来られる方が多いですから、観光のおまけじゃなくなってきてるんです。そういう意味では、もう観光地じゃなくてもいいのかもしれませんね。
ほお、なるほど。
席描きのサンプルは昔はなかった
それに、今はサンプルを見て選ぶ人も多いですよ。でも、昔は描いてる人も少ないし、サンプルなんて置いてなかったんですよ。
そうなのか。描く人が少ないから比較する必要もなかったってことですか。
そうですね。サンプルを置くようになったキッカケがあるんですよ。
ほお。
昔は、似顔絵を描いてる人は、漫画家の男性の方が多かったんです。私は、当時は若い子だった(笑)ので、そういう年配の男性と一緒にやってたんですが、その頃は、若い女性はヘタって思われてる時代だったんです。
そうなんですか?
そう。例えば、お子様を連れたお母さんが来たときに、子供が私の前に座ると、「ダメよ。そこに座っちゃ。若い子はヘタだから。」とか言われるんです。
そんなこと言われるんですか!
そうなの。それで、年配の男性のほうに子供が引っ張られて行くんです。そんなのがしょっちゅうあったんです。
へえ。
そんな時に、一緒に描いてた女の子が、「見本さえあれば、カワイイ絵を描けるって分かってもらえると思うから、見本を出したい!」って言ってきたんです。
ほお。
「じゃ、1枚だけよ。」って言って見本を出したのが、たぶん似顔絵サンプルの始まりなんです。
すごい、歴史を感じますね。
恥ずかしい(笑)。
今はもうみんな当たり前にサンプルを置いてますけどね。
今は、似顔絵サンプルの研修もしてますよ。こういうサンプルをこういう位置に置いたほうがいいとかね。それも歴史があるんですよ。昔は有名人のサンプルが多かったけど、今は一般の人が多いとか。もう話しだすと終わらないですよ(笑)。
でしょうね。いやー、歴史の始まりを聞けただけで満足です(笑)。小河原さんって似顔絵歴史を見てきた人だと思うんですよ。興味深いです。
近世のね(笑)。感慨深さはあります。すごく変化していってますから。
業界の需要はどんどん広がってる
どう変化していってるんですか?
どんどん需要が増えて、広がってます。昔は、似顔絵って土日や祝日だけの仕事だったんです。でも、今は毎日できるようになってますし、星の子以外にもたくさん会社ができてるし、いろんな仕事が生まれました。たとえば、昔は似顔絵ウェルカムボードってなかったですから。
あ、そうなんですか。
私は、昔は文字でウェルカムボードを作ってたんですが、似顔絵も入れたら面白いんじゃないかと思って、アメリカから友達が来たときに、「アメリカにはウェルカムボードってあるの?」とか「どんなコトバがいいと思う?」って聞いたんです。
ほお。
そしたら、友達のデイブが「welcome to our wedding reception」はどう?って言ってくれたんです。それで、しばらくそれを使ってたんですが、日本人の私には、ちょっと長いなと思って、「happy wedding」に変えたの。こっちのほうがシンプルで、絵と合う文字数だったから。
似顔絵ウェルカムボードって小河原さんから生まれたの?
分からないですけど、私はそうやってデイブと一緒に文字を考えましたね。
僕も似顔絵ウェルカムボードを描くときに、その文字を使ってますよ(笑)。
あ、そうなんだ(笑)。
そういう感じで、新しい仕事が生まれているってことですよね。
そうですね。仕事は増えましたし、職業としても確立したと思います。わたしたちのときはアルバイトでしたけど、私自身は、似顔絵を描くことで、子供を育てて、大学を卒業させてますから。
なるほど。
昔は、仕事を他に持ってて、ちょっと似顔絵を描いてますっていう人がほとんどだったんです。でも、今は、似顔絵だけで食べてる人がたくさんいます。職業として確立するっていうのは、それで生活して、税金を払っていくことだと思いますから、もう職業になったなと思うんです。
似顔絵はやっと職業になったと思う
やっぱり仕事の大半が席描きなんですか?
そうですね。あとは、イベントやネットでの通信販売。
昔より描いてもらいたい人が増えてます?
増えてると思います。それは、何かに使えるようになってきてるからだと思う。
それは何が変わったんですか?何かキッカケがあるんですか?
私の感覚ですけど、プリクラが流行ったことって大きかったと思うんです。
ほお。
プリクラが生まれて、自分の顔で遊ぶっていう価値が生まれたように思う。それまでは親が子供を連れてきて、「似顔絵を描いてください」っていうのがほとんどだったんです。「お母さんもどうですか?」って言うと、「私なんかいいですよ!」って言われてたんですよ。でも、プリクラの頃から、「私もお願いします。」って変わったんです。若い子が、「自分を描いてください」って来るようになったのもその頃だと思います。
なるほど。面白いですね。
その前のブームとしては、ご存知ないかもしれないけど、テレカっていうのがありまして。
おお、テレフォンカード!懐かしい。
テレフォンカードに似顔絵をプリントするっていうのが、バブルのときの、うちのヒット商品だったんです。あの時は、新橋や東京駅の地下街で描くと、「名刺代わりにテレフォンカードが欲しい」っていう依頼がたくさんあったんです。
すごい時代やなあ。
最近は、若いカップルとか、何かのプレゼントにしたいっていう人が多いですね。
似顔絵の使い方が多様化していってるんですね。
そうですね。実は写真から描くのはずっと断ってたんですが、あるとき、写真も受け付けるようになったんです。最近は、お買い物の前に写真を持ってきて、買い物が終わったら似顔絵を受け取る方とかもいますから。
そんな人いるんですか。
いますよ。プレゼントの場合が多いですね。プレゼントが飽和状態になったときに、手作り感があって、喜んでもらえるものとして似顔絵がよかったんでしょうね。おじいさん、おばあちゃんは写真で、お子様は実際を見て1枚の絵にすることも多いですよ。
もともと写真でやってなかったのは、難しいから?
そうですね。ちょっと別の技術がいるんですよね。それにやってなかったから、できるとも思ってなかったんです。
なんで描くようになったんですか?
目の前のお客さまを大切にしたかったので、写真だと、描きたくない作家さんもいたんです。でも、自分たちの仕事を広げるために、これはやらないといけないだろうということになったんです。
なるほど。
対面で描くのと、写真を送ってもらって描くことは全然違う
対面じゃなくて、ネットで写真を送ってもらって描くのって全然違うものですよね。
まったく違うと思います。席描きって絵以外の部分が大きいんですよ。お客さまが気持ちよく帰れるかどうかによって、同じ絵でも、気に入り方が全然変わるから。
そうでしょうね。
会った時の力がライブの価値だと思う。だから、どう座るか、どう向き合うか、ちゃんとしないといけない。絵だけじゃなくて、その時の思い出も大切なの。
なるほど。
ネットでの依頼は、ラフ出ししながら完成品を目指し、一緒に進めて行く感じ。だから、全然違うの。席描きはコミュニケーションの価値が本当に大きい。同じ絵が、2倍、3倍、10倍、100倍、1000倍になるぐらい違う。10分で描いた絵が一生飾ってもらう絵になるかもしれない。
画力だけじゃない。
そう。画力だけじゃないって思ってるんです、私は。でも、この気持ちが強くなりすぎちゃうと、絵はどうでもいいってなっちゃうんですけど、そうじゃないんです。アベレージはちゃんと出さないといけない。
そうですよね。
だから、新しく入ってきた人に何を伝えるかと言うと、なんか禅みたいだけど、平常心で座ること。前日にクレームがあったからって動揺したらダメだし、リピーターがいるからって安心しちゃダメ。平常心で会って、座って、描く。シンプルに考えるの。
なるほど。
接客の基本は、キチンと感じること。そして、相手のテンションにあわせるの。それが似顔絵描きが最初にすることだと思うの。
コミュニケーションですね。
そう。まず、お客さまが居心地いい場所にするの。イラストは完成までに時間がかかるけど、席描きはその日に終わるから、いい仕事だと思う。ダメでも、次の日にまた頑張ればいいんだから(笑)。
野球の試合みたいですね。
そうですね。若い子が、その週に会ったことを報告してくれるんだけど、ああ、この時期だなあって思う時はある(笑)。
そういうのって伝えるんですか?
空気感や相性もあるので、言うべきと思えば言うし、言わないときもあるかな。
なるほどねえ。このインタビューでマネージャ的な視点で語る方は初めてです。やっぱり作家さんとはちょっと違いますね。
ええー、作家としてだけ話せたらもっとカッコいいのに…。
えー、なんでですか。作家としてのコダワリも感じられてオモシロいですよ。
そうかな。私は、絵に特化していきたくなってる時期なんだと思う。だから、作家として話したいんでしょうね。
できなくなったことは、やらなくていいこと
描くのが好きなわけでしょ。でも、会社の役員になって、人が増えると、管理ばかりでイヤになったりしないんですか?
管理するのは別の人がやってて、私はイベント担当みたいな感じだったので、すごく描いてたんです。でも、あまりに忙しすぎて体調が悪くなっちゃって、それで、過労でダウンしたこともあります。
えっ。
でも、わりと楽観的なので、しばらくイベントを休んだ方がいいなら、それじゃ、本を出そうと思って、「時間ができたので、本を出そうと思います」って出版社に連絡したんです。
すごい前向きですね。いっぱいいっぱいになってる人が、そんな風に考えないですよ。
実は、人に会うのがあまり得意じゃないので、プリントして送ったの。だって、何かができなくなることって、何かができるようになるってことでしょ?きっと。
前向きな人の考え方ですよ。
私はイベントばかりやってたんですよ。イベントってやることが仕事じゃなくて、次に呼ばれるところまでが仕事じゃないですか。
はい。
そういう風に次につなげることができるのは自分だけだと思ってたんだけど、でも、私が休んだとき、他の人もできてたの。人にやってもらったらその人のほうがうまくできたりするんですよね。そうなると、自分には別の仕事が待ってるんだと思って楽しみなの。
すごいポジティブですね。
過労でダウンすると、誰だって落ち込むけど、落ち込んだままでいられないじゃないですか。子供もいるし、生活していかないといけないから。ご飯も作らないといけないから。
そうか。
それが大きいかな。母が亡くなった時に、何もすることがなかったら、3年でも10年でも落ち込んでいたかもしれないけど、ご飯作らないといけないし、することいっぱいあるから、女の人のほうが早く立ち直りそうじゃない。
うーん。なるほど。
自分はそうだったの。息子がいたので。 何かをどんどん失っていっても、やらなければならないことがどんどん現れるんです。
新しいものは縁ですか?
そうですね。縁です。すべて受け身なんです。今回の個展も縁で、やらない?って言われて。
もうそういうポジションなんでしょうね。でも、本を書くときに、出版社に書類をたくさん送ったって言ってたじゃないですか。そういう過去の積み上げの上に現在があると思うんです。それをしない人が多数だと思うから。
そうなのかな。とにかく人と会うのが苦手だから、自分にあった方法が文章だっただけなんだけどね。でも、こわがりだし…。もう飛行機が怖くなってしまって、似顔絵の世界大会にも出れなくなっちゃった。
えっ、飛行機に乗れないんですか?
でもね、できないことが増えるけど、できることも出てくるもんね。行けないとしたら、行かなくてもいいから。じゃ、他のことしようと思って。それに、できないことは、やる必要ないことなんで、自分で取捨選択しなくていいから、逆に楽かも(笑)。
悟りの領域ですよね(笑)。
恥ずかしい。でも、すべてのことは、求めていてできないからですよ。
それも深いなあ(笑)。
海外の似顔絵の大会にも行きたいけど、行けないでしょ。だったら、他にやりたいことを探すということになるんですよね。
うーむ。深い。達成できないことがあるから、次のパワーになるってことですよね。
そうですね。
すごいよく分かりますけど、若い時に言われても意味が分からなかったかも。
そういうのありますよね。高校生の時に、カモメのジョナサンを読んだら、カモメの話と思ったんだけど、年を取ってからまた読んだら全然違うのよね(笑)。
やっぱり自分の体験がないとメッセージをキャッチできなかったりしますよね。
そうよね。そうすると、インタビューも年を重ねてからしたほうがいいかもね。
そんな気はしますね。これも初めてよかったと思ってます。僕は似顔絵を描いたから分かることが出てきて、インタビューを始めたんですが、最近は雑誌を読むと、このインタビューはスゴイなっていう視点が生まれてきてるんです。でも、やってないときは作り手の視点なんてなくて、内容を見てるだけです。まだインタビューはちょっとしかしてないけど、そういう視点が出てきて、オモシロいなって思います。
うんうん。面白いよね。違う楽しみができるよね。これは踏み込んだなとか思うんでしょうね。ふふふ。
僕は、興味からまず入って、やるべきなら続けるってスタンスなので。
ある部分同じです。似てます。ふふふ。
自分の体験からルールを作ってきた
昔は本当にルールがなくて、大変なこともいっぱいあったの。だから、他の人も同じことならないように、イベントやる時はキッチリとルールを作るの。何時間労働、何時間休憩って決めて、担当の人にも分かるような資料を作って。自分が大変だったことは他の人にはしてほしくないから。だから、常にルールを作ってきたの。
ふーむ。なるほど。
本当は最初に決めたらいいんだけど、自分が限界まで来てやっとルールの必要性が分かるんだから、頭が悪いですよね(笑)。
いえいえいえ。自分の体験がベースでしょ。頭で分かるのと、体験して分かるのって違うから、それでいいと思いますよ。現場視点でマネージメントをしてるんだなって感じますよ。
あ、そういう言い方があるのね。そんな感じでいろんなことを作ってきたなと思う。全部経験したから。
これから取り組みたいこと
活動領域が変化していってるなかで、これから取り組もうとしてることってあるんですか?
ある。
あるんですね。すごい!
最近すごい考えるの。それで、似顔絵って何?って思ったときに、「似」「顔」「絵」じゃない?
うんうん。
自分は、「似」はテクニックだと思ってて、「顔」はお客様でしょ。それで、「絵」をもっとやっていきたいと思ったんだよね。「絵」って、描きたいって気持ちがあるから描くでしょ。この人が描きたい!っていうのがはっきりあるのが「絵」だと思うの。
なるほど。
「似」って、極端な話、モデルは誰でもよくて、似させるとが目的だと思うの。だから、流行の人のほうがいいだろうし、特徴的な顔だったら描きたくなっちゃう。でも、「絵」っていうのは、この人を見てこう感じたっていう「気持ち」だと思ってるのね。今までは、似せることに夢中になってたと思うの。そのほうがみんなの反応もいいしね。でも、この人を見て驚いたとか、自分の気持ちが動いた人を描きたいって思ったの。
そう思うようになったのは最近なんですか?
潜在的には、たぶん昔からなんだけど、コトバにしたのは最近。
似顔絵で、自分の感情表現だったり、メッセージを発したいってことですか?
そう!
似るだけだとテクニックっていう考え方なんですね?
私はね。いろんな考え方があると思うけど、私としてはそうなの。
テクニックを見せるんじゃなくて、エモーショナルな表現がしたいと。
そう。目に見えては違いはないかもしれないけど、自分の中では全然違うことなの。
うんうん。
私の表現力では伝えられないかもしれない。もしかして、いっぱい描いたら、伝わるかもしれない。まだ分からないけど、やりたいことはそんな感じ。
今回の個展はそういうスタンスなんですか?
そう。たぶん(笑)。
それがこの個展のタイトルの「人の顔はひとつではない Two Faces」なんですか?
そう。私が似顔絵を描くときって、このモデルはこう描こうかな、いや、あの顔かな、って悩むときがあったの。でも、今回は描きたいって気持ちを大切にして、両方描いてみようと思ったの。
ということは、これからいろんなものを作っていくわけですね。
そんな気がしてる(笑)。あと、タイトルを付けたのは、もう1つ理由があって、私は、お題がないと見る人が喜んでくれないだろうって気持ちがあるの。
分かりにくいということ?
そう。美術館に行くと、滞留時間が短い絵って見かけません?でも、せっかく描くんだから、長く見て欲しいでしょ。そのためにテーマがあったほうがいいと思ってて、それで、今回もテーマをつけてみたの。
なるほど。
個展をやる意味は大きい
でもね、こういう考えって、個展をやることになって、いろいろ考えてたから、整理されたんだと思う。今まではぼんやりしてたと思う(笑)。
僕は、今回が初めての個展と聞いてビックリしました。
これを言っちゃうと誤解されそうだけど、個展をやって知り合いだけが来ても意味がないとずっと思ってて、だからやらなかったの。
じゃ、なんで、今回やろうと思ったんですか?
やりませんか?って誘われたから(笑)。
あっ、そうか。自分からじゃないんですね(笑)。
でもね、個展をやるといろいろ考えるから、すごいいいと思った。テーマを決めて似顔絵を描くって、何のために自分が描いてるのか考えるキッカケになる。自分への問いかけみたい。だから、もし友達しか来ないとしても、いや、仮に誰も来なくて、自分しか見ないとしても、やることに意味があるんだなと思うようになった。
なるほど。
それで、いろいろ考えたら、今はいろんな質問にすっきり答えられてる気がする。だからやってよかったと思う。すべてやってみないと分からないでしょ。
僕も似た感覚を持ってて、やってみないと本当に分からないと思ってるんですよ。僕はウェブサイトを作るのは得意だけど、文章を書くのとかインタビューは初めてですよ。でも、やってみていろいろ発見があります。
得意なことを活かしつつ、新しいことをやったら、なにかが生まれるよね。得意なことだけやってても生まれにくいかもしれない。他になにかがね。
マルチだから教えるのが合ってると思う
私は昔に似顔絵を始めた人なので、似顔絵に関する仕事は全部来ちゃったの。フィギアの三面図だったり、ソフトウェアの開発に呼ばれたり、テレビのワイプとかね。それで、全部やっちゃったので、広く浅いんです。 だから、テレビチャンピオンに出たときも、「マルチな作家」って紹介されるんです。でも、「マルチ」って呼ばれる人のほとんどは、それが、嬉しくもあり、悲しくもあるでしょ。
すごくよく分かります。
でも、それを通り過ぎると、それが自分だなって思うんです。
まったく僕も同じです。僕は自分のことを器用貧乏って思ってて、何でもできるけど、何のスペシャリストでもないことにコンプレックスを持ってたこともあるんですが、今はそれが自分の強みと思ってますね。それが僕なので、徹底的にやると。
そうそう。それでね、そしたらマルチな人って先生に向いてると思ったの。
なるほど。
広く浅く教えられて、いろんな視点があるじゃない。今、先生をやってて、自分にあってるなって思うし、マルチも極めればスタイルになると思う。
先ほど教室を見学させていただきましたが、みんな楽しそうでしたね。
生徒さんには、その人らしく描いて欲しいの。それがステキだと思うから。誰かのスタイルに似てるって言われたら、つまらないと思うから。
仕事とお金のバランス
ちょっと話が変わるんですが、仕事とお金はどういうバランスで考えているんですか?
経済活動っていう意味では、自分の場合は、あとからついてきたから、お金のことは考えたことはないです。
すごい!そんなセリフはなかなか言えないですよ。
儲かってるって意味じゃないですよ。でも、入ってくる以上に使わなければいいだけだし、貧乏なときもありましたよ。でも、贅沢しなければ生きていけますね。
すごい分かるんですけど、昔ってそういう考え、今よりもっと理解されにくい気がするんです。周りとのギャップってなかったんですか?
美術大学だったんだけど、そういう人ばかり集まっていたのでギャップはなかったです。
人って周りの影響を受けるでしょ。バブル時代って周りは金を使いまくってたわけでしょ。そんな時代に、そんな考え方を持ってたのがすごい。
ケチなんですよ(笑)。
わはは。
だから、事業をどうしても大きくしていかなければならないという発想がないんです。
でも、結果的に大きくなってるんでしょ。
それは秋久という社長がキチンとやってくれたから、大きく育ってきたんだと思います。
職業として成り立たせるには、誠実でキチンとした仕事を積み重ねること
業界全体のことって考えます?
そういう感覚はないと思います。目の前のことを一生懸命やってるのが、何かのカタチで役に立ってるかもしれないけど、進むべき方向が見えて進んでるわけじゃないの。
他の業界の人に同じような質問をしたことがあるんです。その方は、前に進むために、目の前に積もった雪をどけてるだけって言ってました。それが、どこに続いてるか分からんって。
そうです。そんな感じです。
そういう考えがコツコツ続けるパワーなのかなあ。コツコツが一番強い。
コツコツは好き。でも、仕事として確立するっていうのは誠実にコツコツとよい仕事をし続けることだと思います。
似顔絵の描き方
ええと、似顔絵の話もしておきましょう(笑)。芸能人と一般の人で描き方を変えてますか?
一般の方はその人が喜ぶよう描くし、芸能人はパブリックイメージを大切にして、みんなが見て楽しめるようにしますね。
はいはいはい。
仕事で描く時の有名人似顔絵は、求められてるものを描くようにしています。新聞なら新聞用。
タッチはどう使い分けてるんですか?
それは仕事次第。今はイベントはめったいにないので、対面のお客様は、対話の中で、相手が喜ぶように描く。私は、描いてるのを見せながら描くので、相手の反応を見ながら描いていきますね。ラフ出ししまくりな感じです。
コミュニケーションしながらなんですね。画材は?
水彩です。作品の場合は、いろいろですけど。納品する仕事はパソコンで描いてます。
タブレットで?
はい。
昔に始めたときにまだパソコンないでしょ。
ない(笑)。知らないと思うけど、昔はパソコンで線を描いても、すぐに出てこなかったんですよ。
わははは。ウインドウズですか?
マックしか使ったことないの。実は、社長がパソコンが好きで、買ってたんです。でも、全然知らなかったんですが、ある日、値段を聞いてビックリしたんです。
当時は100万とかするんじゃないですか?
そうですね。そんなときに、フロッピーの会社からパソコンで描いてくれませんかって依頼があって、それで使ってみたの。
フォトショップで描いてたんですか?
いえ、Painterだったの。だからずっとPainterなの。
Painter!いまもですか?
うん。あんまり使ってる人いないですよね。でも、バージョンアップしてますよ。フォトショップとかイラストレーターと近くなってきてますね。
当時、Painterの本なんてないでしょ。
吉井さんの本を読んでました。
ああ、吉井宏さん!あの人のキャラクター大好きでした!懐かしい!
私も大好きです。吉井さんは、マックフェアのときに、レセプションでご一緒しました。
そうなんや。僕は大学生のときに吉井さんのサイトをよく見てました。
吉井さんの本は私には使いこなせないことも多かったですが、勉強になりましたね。
僕がすごいなと思うのは、昔と今って絵を描く環境が全然違うじゃないですか。パソコンにシフトしていくときって、みんな試行錯誤でしょ。今はサイトで調べたらすぐ分かるけど。それを手探りで表現の幅を広げて行ったんでしょ。
パソコンの値段が高いの知ったから使わなきゃって思った(笑)。私は、一番最初に使ったものが大好きになるので、マックが大好きなの。可愛くて仕方ない。マックはもしかしたらこうかもって思って触ってたら、なんとなく出来るでしょ。これならやっていけると思ったの。
見た事ないものを作りたい!
今日、お話を聞いてて、完全なクリエイターやと思いましたね。生み出すことが生き甲斐でしょ?
そう、だって、見た事あるものなんてつまらないでしょ。誰かが見たことないものを作ってくれると、すごい嬉しくて、神様みたいと思っちゃう(笑)。だから、私も見た事ないものを作りたいし、教室で教えてる生徒さんにも作って欲しい。
生徒でも出来る可能性がある?
あります!みなさんそれぞれ私とは違うことを積み重ねてきた方々ですから。新しいスタイルっていうのは、出会うはずのなかったものが出会う時に生まれるの思うの。
化学反応ですね。
そう!
だからバックボーンが違う人との会話が楽しいんですね。僕と全く同じです。今日はお会いするまで、僕と小河原さんに共通点があると思ってなかったんですが、不思議な感じ。
そうですか(笑)。
毎日、新しい表現のトライアンドエラーを続けてるのに、まわりには気づかれないんですか?
私はだいたい新しい技法は夜に思いつくんですが、次の日にやってみたら大したことないの(笑)。それで気づかれないんだと思います。
意図をちゃんと説明してないんでしょ。例えば、さっきの教室でやってたのは偶然性のオモシロさですよね。チェーンを使って横顔を描くと、ペンで描く線と違って、自由なラインにならないから、その偶然性が面白いんですよね。
そうです!!
僕は、イラストレーターのベジェで描くので、線はキレイに描けるんです。でも、たまに、わざとペンツールに変えて、マウスで描くんです。そうすると、意図しないラインがもっと似てることがあって、それと同じだと思いましたよ。
そう。私は偶然性が好きだから、そういうのをどうやったら伝えられるんだろと思って、あっ、チェーンだ!って閃いたの。でも、かすかにこの感覚を分かってくれる生徒がいるのよ。
あ、みんなには伝わらないの?
一度でみんなには伝わらないですね。
先生は何をやってるのかな…?ってなるんだ。わははは。
考え抜けば、答えは現れる
一番夢中になるのは、普段考えてたことが夜に閃いたとき。夜に思いつくことって本当にすごいと思ってるの。
なんか集中する空間とか作るんですか?
いや、特に何もしない。寝るときにボーッと考えてると、そのときに夢中になってることのアイデアがパッと出るときがあるの。横顔もずっとやりたいって思ってたから。
それで、閃いたのが鎖なんですね。
そう。前々から10人いたら1人ぐらい横顔のほうがいいと思ってて。でも、意外に横顔を教えるノウハウはないんです。
そうなんですね。
小さいときに好きだった話があるんだけど、ミシンが出来たときの話って知ってる?
知らないです…。
あのね、あるお母さんが毎日縫い物をしてたのね。それを見ていた息子が、お母さんに楽をしてもらいたいと思って、動力で自動的に縫えるミシンを考えるんだけど、どうしてもうまくいかないの。裁縫の針っておしりに糸を通すでしょ。 だから、ミシンの針穴もおしりの所と思い込んで考えていたんだけど、どうしてもうまくいかなくて…。それでずっと考えていたら、ある時夢を見たの。
ほお。
未開の地で、槍を投げて、動物を狩猟してる夢を見たの。夢の中では、槍の先に穴が開いていたので、それがヒントになってミシンの針の穴が先端にできたっていう話があるのね。
なるほど!確かに、槍って先端を持ちますもんね。それはすごいエピソードですね。
そうなの。その話を聞いたとき、すごい衝撃をうけたの。だからね、ずっと一生懸命考えてたら、ほっといたら、いつか解決するって思ってるの。
そういう解釈ですか(笑)。普通そういうエピソードから学ぶのは、「常識を疑え」とかでしょ。ほっといたら解決するって言うのはすごい楽観主義ですよ(笑)。
でも、その前によーく考えるのよ。それが大事。それでも、解決策が出てこないとしたら、本気で考えてなかっただけと思ってるの。だから、よく考えるの。
なるほど。そういうことか。
創作活動と仕事はまったく別のモノ
そういうことも授業で伝えるんですか?
みんなが描いてるときに、好き勝手しゃべってるから言ってるかも(笑)。みんなが描いてるときにいろいろ言うんです。絶対にオリジナルじゃないと意味がないとか。ウマい人はいっぱいいるとか、うまいだけの人にならないようにとかね。
作るプロセスで真似するっていうのはどうなんですか?
それはアリですね。でも、私の考えだけど、真似するものが好きなモノじゃないとダメ。本当に好きだったら、その人のことを越えられないって、ある時に分かるんですよ。そして、次は自分のスタイルを探し出すと思うんですよ。
誰かの真似がゴールではないですもんね。2次創作をしてる人には分かると思いますよ。一般の人には分かるのかな?
プロセスやテクニックとして、こういう風に描くんだなっていうのは、誰かのを見本にしてやればいいけど、そこで満足しちゃう人は、本気で好きな人じゃないと私は思うのね。うまい人と同じに描く事が目的じゃないでしょ。そのうまい人とどう違いを出していくかが大切だと思うから。
完全に共感なんですけど、日本の教育って逆な気がするんですよ。僕の感覚なんですけど、完全にコピーできたらよく出来たって言われて、同じじゃないと残念みたいなね。模写って、テクニックなので、やれば誰でもできるようになると思うんですよ。それを否定してるんじゃないですけど、クリエイティブだとは僕は思わないんです。でも、一方でそっちのほうが商品価値あるようにも思うんです。
そういうこともありますよね。でも、自分が選べばいいし、両方やってもいいと思う。
なるほど。
「自分はこんな絵が描きたいのに、お客さんは喜んでくれません」っていうのは、もったいない気がするんです。 だから、席描きの絵は、クライアントあってのイラストとして考えて、作品は公募や展覧会に出していくのが今はいいと思っています。ただ、時代の流れの中で、これからその2つが1つになっていく可能性はありますね。
昔からそういう考え方なんですか?
そうですね。でも、昔はいろいろ悩んでいたけど、今はおばさんになって、自分の考えを自信をもって話せるようになったのかもしれないですね。
今後も流れに身を任せる
今後やることも、流れに身を任せる感じですよね。個展をやるとまたなにか生まれるかもしれないしね。
分からないですけどね。やるしかない。あ、たぶん横顔の本は出すと思う。今夢中だから(笑)。
そういうのは、周りから見たら羨ましいでしょうね。
そうなの?うらやましがられたことないですよ。
わははは。小河原さんがやってることって似顔絵師の範囲じゃないように感じたんですが、自分ではどう考えているんですか?
うーん。やっぱり顔にこだわっていきたいな。
なるほど。
今日は初めて会ったときに、この人いっぱい喋るなって思ったんですけど、私も喋るから終わらないわね(笑)。
そうですね。でも、楽しかったです。長い間本当にありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
(2013年4月13日 石神井公園の星の子プロダクションで)
描いてもらった似顔絵
また長いインタビューになってしまいました…。ここまで読んでくれた方々ありがとうございました。インタビュー前には、似顔絵教室の見学をさせて頂きましたが、生徒さんはすごい楽しそうで、定員いっぱいでキャンセル待ちだそうです。スゴイですね。 生徒さん全員に正面画の似顔絵を描いてもらったんですが、次の週には横顔が送られてきたので掲載させて頂きます(笑)。
どうやら、似顔絵教室では僕がモデルになっているようです(笑)。 右上が小河原さんのチェーンです。似顔絵を描いたことない人に、この偶然性のオモシロさは、果たして伝わるのだろうか?
あとがき
インタビューはとても楽しかったです。小河原さんは、すごく繊細で、すごくコダワリがある人。そんな印象を持ちました。これからどう絵が変わっていくのかが楽しみです。今回は似顔絵を描いてない人には、ただの長い文章になってしまったかもしれないけど、僕にとってはいろいろな気づきがあるインタビューになりました。僕ももっといろんな経験を積んで教えることも仕事にしようと思います!