働き方インタビュー 016 / イラストレーター ちたまロケッツ
吉本芸人のグッズの似顔絵が僕のイラストとちょっと似てるので、僕が描いてると間違う友達がいて、たまに連絡がくる。最初見たのは7年ぐらい前。そのときは、誰が描いてるか分からなかったけど、最近調べたら、サイトがあったのでメールしてみた。そして、お会いする機会が頂けたので、インタビューさせて頂きました。また、長くなってしまいましたが、お許しください。
ちたまロケッツ プロフィール
ちたまロケッツ、吉本グッズの似顔絵を描いている、東京のイラストレーター
(画像の掲載許可をいただいています。)
デザイナーでありイラストレーター
今日はお時間いただきありがとうございます。よろしくお願いします。
初対面なのでドキドキしますね。よろしくお願いします。
ちたまさんは、吉本芸人のグッズの似顔絵を描いてて、絵を見たことある人も多いと思うんですが、似顔絵ポリシーってあるんですか?
自分のこだわりはあまりないので、本当に単純で、本人にも周りの人にも楽しんでもらえる似顔絵が描きたいんです。
ええと、職人ってこだわるでしょ。でも、こだわると一般受けしなかったりするでしょ。
それはありますね。
商業向けと自己表現のバランスって人それぞれじゃないですか。ちたまさんのイラストは商業寄りって思ってるんですがどうですか?
その二択なら、アーティストというより商業寄りですかね。自己表現する場所では必ずしもないというか。
やっぱりそういうスタンスなんですね。
もともとデザインを勉強して、この業界に入ってるので、必然性があればタッチも変えますし、制約の中で自分らしさや、より良いモノを提案したいと思っていますね。
なるほど。
そういう意味では、アーティスト思考の方よりは、やりやすいんじゃないかなと思います。なるべく柔軟に対応します。
でも、デザイナーみんながそんな考え方かというとそうでもないんです。僕は、たくさんのデザイナーと仕事してきましたけど、やっぱり柔軟な人のほうがやりやすいです。どれぐらい社会人やってたんですか?
会社員として5年、独立してからを合わせると10年ちょっと。
社会に揉まれた経験があることが大きいのかなあ。
それはデカイですね。
いろんな立場を経験すると視野が広がりますね。
そうですね。今は依頼される立場ですけど、会社にいるときは、他の会社のデザイナーさんに依頼することもありましたから。この人、やけに主張してくるなぁとか…。やっぱり逆の立場を経験したから分かることってありますね(笑)。
分かります。
極端に言うと、そんなにやりたいことがあるわけじゃないんです。合気道的に相手の力を利用して技をかけるみたいな感じなんですよ。
なるほど。
業界内と業界外の評価の違い
周りにイラストを描く人は多いですか?
いますけど、フリーで食えてる人はそんなにいないですね。僕は、美術大学に進むために、予備校に行ってたんです。そしたら、絵がうまいやつが集まるでしょ。こいつには絶対勝てない、ってやつもいるんですが、意外と食えてる人は少ないんです。
業界内と業界外の評価って違いますもんね。
そうなんですよね。スゴかった人達が、やめて違うことをしてたりするから、自分が食えてるのは不思議ですよ。
先日、劇団員の人たちと飲みに行ったんですが、同じようなこと言ってました。業界内にかなわないって思う役者がいるみたいで、すごい役者が登場すると、そのシーンの匂いがするらしいんです。
でも、そういう役者が食えてるわけじゃないみたいです(笑)。クリエイティブな人って業界内で切磋琢磨してるけど、そのテッペンが必ずしも経済的ハッピーではなかったりするんですよね。
そうですね。
そして、あからさまに商業に行くと、業界内では叩かれるけど、売れてますみたいな。こだわればこだわるほど一般に評価されないことがあるっていうのは皮肉だなと思います。写真家も、ライターも、ミュージシャンも、何かを生み出す仕事をしてる人に共通してると思います。
そうですね。僕も、食べれることは重要ですけど、同業者からも「いい!」って言われるものを作っていきたいので。そのバランスを取りたいですね。
吉本芸人の似顔絵を描くようになったキッカケ
どういうキッカケで吉本のグッズの似顔絵を描くことになったんですか?
昔から似顔絵を描いてたわけではないんです。タレントグッズとかを作ってる吉本の子会社に、デザイナーとして入ったんですよ。 で、そこには、僕の少し前に入社していたデザイナーの人がいて、その人が吉本芸人が出演している番組グッズの似顔絵を描いていたんですよ。
当時、極楽とんぼが司会の天才テレビくんっていう番組があって、僕も入ってすぐに、「二人のイラストを描いてみろ」って言われて描いたんですけど。当時は、似せてカワイクするって不可能だと思っていたんです(笑)。
わははは。
だから、衣装とかを強調して、似顔絵というよりキャラクターみたいにして下描きを見せたんですが、あまり評判よくなかったです。まあ似てなかったし(笑)。こいつは似顔絵はダメだなって思われたみたい。それからは頼まれなくなりました。
わははは。
それで、僕は似顔絵じゃない吉本グッズの制作を担当してたんです。例えば、これは、吉本手帳って言って、吉本社員が使うスケジュール帳(2012年まで市販)なんですが、後半がネタページになってて、吉本流・◯◯の仕方っていうイラストを描いたんです。それがウケて、コイツはこういう面白いアイデアのほうがいいと思われて、ネタのイラスト担当みたいになりました。
なるほど。
それに、当時は、お笑い芸人のグッズが売れるほど、お笑いが加熱してなかったので、似顔絵の需要はそんなになかったんです。
そんなことないでしょう。
いや、そうなんです。M-1が始まって、3年ぐらいは芸人グッズは全然売れてなかったです。ルミネtheよしもとが出来たとき、吉本のお土産を売るお店も横に出来たんですが、芸人グッズはあまり売れてなかったんです。
だから、芸人の知名度だけじゃなくて、番組と連動したグッズ制作をメインにしてて、似顔絵が必要なときは先輩が描いて、僕は普通に写真を使ったりして、商品パッケージをデザインしてたんです。
で、あるとき先輩が辞めちゃうんですけど、その後に、リチャードホールというテレビ番組が始まるんです。
くりぃむしちゅー、アンタッチャブル、劇団ひとり、とかが出てたネタ番組です。関東だけだったのかな?その商品開発のときに、似顔絵を描くやつがいないから試しに描いてみろってなったんです。
最初に似顔絵を描いたときから、3年以上経ってて、先輩の似顔絵を見てて、かわいいと似てるが両立できるって意識が変わってたんです。
いろいろあって、描いた似顔絵で商品化はできなかったんですけど、イラスト自体は、社内でいいね、ってなったんです。
タッチが変わってたんですか?
タッチというか意識ですね。似せようって意識に変わったんです。単純な線で、似せてカワイクできるって思ったので。
似顔絵を描くスキルが上がっていたってことですか?
うーん。考え方が変わった感じです。スキルより経験の方が大きい。先輩の似顔絵を見て、ここを目指せばいいんだっていうのもありました。デフォルメが上手い人だったので。
なるほど。
そこからは、はねるのとびらも始まって、ロバートとかキングコングとかグッズが売れる若手の芸人が出てきたんです。単独ライブもあったので、また描いてみる?って言われて、すこしずつ吉本芸人の似顔絵を描く機会が増えてきたんです。
そういう経緯だったんですね。
僕が入社する前から、劇場オープンに合わせて、外注して作った似顔絵グッズがあったんですが、あまり好評でなかったので、在庫がなくなったときに、僕の似顔絵に変えようという動きも出てきたんです。
それは、何年ぐらいですか?
2005年とかですね。もう社内デザイナーでは一番上の立場だったので、デザイン、企画、打ち合わせに追われながら、合間に似顔絵を描いてました。
顔を似せるコダワリ
ちたまさんの似顔絵って、似せることにこだわってないんかなと一瞬思うんですけど、似てるんですよね。ただ、思ってた以上に顔を似せることを意識してますね。
そうですね。デフォルメして似せる人が多いと思うんですが、相手の特徴ってコンプレックスでもあるでしょ。
うんうん。
僕は、できるだけ本人にも喜んでいただきたいから、あまり強調しすぎないようにしてるんです。
よくこの話になるんですが、人のデフォルメは笑えるけど、自分のデフォルメは笑えないものなので、本人が満足するデフォルメって難しいです。
僕は自分は嫌われても、絵は嫌われないようにしようと思っています(笑)。
わははは。
極端にデフォルメすると、ホームランが出る場合があるじゃないですか。あれは快感なんですけど、僕のようにたくさんの人を描く場合、当然特徴がない人もいますよね。それを統一感があるシリーズで描かないといけないので、幅ひろく対応できるタッチを追求してたら、今の感じになりましたね。
そういう意味では、このタッチはもう完成形ですか?それとも、まだ進化していくんですか?
うーん。そうですねえ。実は微妙に変わっていってるんですよ。昔はもうちょっとデフォルメしてたんですよ。このロバートも違うでしょ。
ほんとだ!
やってると要求が上がってくるんです。表情やポーズを指定されたりね。対応していくうちに少しずつ変わってきました。
シンプルすぎると表情やポーズの表現が難しいですもんね。でも、芸人って特徴的でしょ。一般の人だとこんな感じで描くのは難しいと思うんですけど。
いや、最近の吉本芸人は男前も多いですし、売れる前の芸人さんって案外普通ですよ。やっぱり売れてくると見た目もキャッチーになってくるんですが。芸人グッズって、メジャーな人よりも、世間の認知度はまだ低いけど、私だけは知ってる!ぐらいの若手芸人のほうが売れたりするんです。
なるほどね。
だから、見たことない吉本芸人を描くことが多いんです。今も描いてて、ヒーヒー言ってます(笑)。
そうか、売れる前に描いてるんですね。
そうなんです(笑)。だから、描いたあとに、テレビに出てきて、ああー、こうなのかあ、って思うことがありますよ(笑)。
一般の人の似顔絵
一般の人を描くときあるんですか?
いや、めったに描かないんです。でも、たまーに描きます。すごい熱意があって、結婚式で是非!って言われると、じゃ、描かせてもらいます、みたいな…。
心が動いたらですね(笑)。
そうですね。中谷さんは、依頼を受けて描かれてるんですよね?それって会うんですか。
会わないです。写真を送ってもらうんです。
僕はそれはモヤモヤするんですよ。写真だけだと実物と印象が違うことも多いですよね。何がモチベーションなんですか。喜んでもらえるからですか?
そうですね。
僕は、写真だけだと、自分の中でゴールが分からなくて、あんまりおもしろくないんです。これ似てます?ってなっちゃうので。なので、実際お会いするのが条件でやってますね。
なるほど。そこにコダワリがあると。
ただ、一般募集もしてないし、基本的に描かないですね…。
似顔絵の描き方
昔は、理論とかないし、わりと感覚的に描いてたんですが、今は、ポジショニングとか、わずかな特徴でも意識的に考えるようになりました。
似顔絵を描くときは、Illustrator(パソコン用のグラフィックソフト)ですか?
そうですね。鉛筆で書いて、スキャンして、トレースしてます。
線も描きなおすんですか?
はい。ただ、下描きの段階では似ないこともありますよ。でも、僕の似顔絵って微妙で、コンマ何ミリの世界でしょ。デフォルメしてない分、位置が重要なので、アナログで描いてると面倒くさくなるんです。
僕も同じです(笑)。30%以下の完成度なら、紙でもうちょっと描きますけど、60%ぐらいならIllustratorで作業して似せていきますね。描くより、つくる感じですね。
そうですね。でも、そのやり方だとたまにハマっちゃいますよね。ずっと画面を見てると、似てきたと思い込んじゃうことがあるんです。ちょっと寝かして、次の日に見ると全然違うときとかあります。
分かる。寝てリセットすると、正しい選択がしやすくなりますね。
ひいて見るのはすごく重要ですね。でも、作ったものを見比べて、こっちのほうが似てるじゃないかって迷うときは、だいたいそこに正解はなくて、もうハマってるんですよね。悩んでいるときは、もう1個上にいったときに、正解があることが多いですね。
どうしようもないときは、1から紙に描くときもありますね。
ありますね。
こういう描き方してる人って結構いるでしょ。絵を見たら分かるじゃないですか。その中で、ちたまさんは商品としての完成度が高いと思うんです。トレースしただけの人もいるけど、見たら分かるじゃないですか。
いますね。
とりあえずトレースしたらどうなるかやってみたことあるんですけど、こんな風には絶対ならないんです。
ならないですね(笑)。
僕は描いてるから、よく分かる。昔に、すごい安い似顔絵制作があったんです。拠点を見たら中国で、似顔絵を見たらトレースしてるだけだったから、たぶん中国人がトレースしまくってるんだろうなと思ったんです。僕はそういうの全く興味ないんです。機械的な進め方で楽しくするのは難しいと思うんです。
似顔絵の面白さ
似顔絵ってどういうところが面白いんだと思いますか?
うーん。デフォルメの場合は、目とか口の大きさや位置って現実とは全然違うでしょ。だから、大嘘をついてるんです。いかに騙せるか。その嘘が快感な気がします。あと、誰でも参加できるところが面白いと思いますね。
どういうことですか?
似てる・似てないの判断って誰でもできるじゃないですか。アートは知識がないと分かりにくいでしょ。似てないのにツッコむのも含めて、楽しいと思う。
好き嫌いの軸の他に、似てる似てないの軸があるということですよね。
まあ、それも曖昧なんですけど、アートよりは主観が優先じゃないですか。エライ人が似てると言っても、自分が似てないと思えば、似てないって気持ちが勝ちますよね。専門的な知識がなくても楽しめるっていうのがいいと思うんです。
そうですね。
あと、ある程度基礎的なことをやってる人だったら、たぶん似顔絵は描けちゃうと思うんです。
僕もそう思う。絵をちょっと描いたことがあって、Illustratorを使えたら、ある程度までは描けると思いますね。
そう。だから、そんな大したことをしてるつもりないんですよ。
なるほど。僕も同じことを言ってたことがありますね。
って言って、「いやー、そんなことないですよ。」って言われるとニヤっとしますけどね(笑)。
わははは。
でも、ある程度までは本当にできると思いますね。
似せる先に行きたい
趣味的に似顔絵を描くことってあるんですか?
いやー、ないですね。仕事だけです。
お笑い芸人以外の似顔絵も描くんですか?
描きますよ。たとえば、ミュージシャンとか。これはTHEイナズマ戦隊ですね。
いまは中居くんの番組の似顔絵を描いてますね。
そういう仕事はどうやって来るんですか?
これは、まだ自分のホームページがなかった時なので、吉本に問い合わせがきて、そこから僕に連絡が来ましたね。
実績の知名度が高いから、仕事が来るんですね。
僕としては、似顔絵というよりもキャラクターを作るっていう意識でやってて、「似せる」の先というか、似顔絵で遊ぶっていうのが理想的と思ってるんです。
ほお。
中居くん番組のイラストでは、番組のテーマによって、毎回コスプレさせたり、アニメーションにしたりして遊んでるんです。
なるほど。
年末に、その年に、活躍した有名人を紹介するコーナーがあったので、中居くんをいろんな有名人にしてみたりもしました。
おお、レディー・ガガとか、ハリーポッターになってますね。「似せる」の先に行きたいっていうのは、やっぱり、似せるということは誰でもできるという前提なんですか?
そうですね。クオリティにこだわらなければ、似たようなものは作れてしまうって気持ちはありますね。
だから、そうじゃないところに行こうということですね。この似顔絵って1.5等身ぐらいなのに、いろんなポーズをしてるのがすごいですね。
そうなんですよ。それが難しいんですよ(笑)。
ポーズの自由度を上げようと思ったら、体を大きくしたほうがいいでしょ。でも、この比率を保ったまま描いてるのがすごい。あと、シンプルにしようと思ったら、もっと線を太くしたほうがシンボリックスになると思うんですけど、太すぎず、細すぎずですね。
ちょうどいいところをね。僕も本当はもうちょっと太くしたいんですが、制約があるからこれ以上太くするのは難しいです。
いろんな表情やポーズに対応するためということですよね。過去のパーツを使うことはありますか?
ああ、苦しくなってくると、似てるパーツを探すことがありますけど、顔に関しては全く同じパーツを使い回すことはないですね。
なるほど。僕と描き方が似てるから、苦労とアプローチがすごく分かる。他の人より分かる気がしますね。
分からないと、頭の上で手を組んでくれって言われるんですけど、顔がデカイからできないんです。
わははは。分かる分かる(笑)。このイラスト見て笑いましたよ。
なんとなく不自然に見えないようにやってるんです。
そうなんですよねえ。
そして独立
5年前に独立したんでしょ。デザインの仕事もしてるんですか?
はい。イラストだけじゃなくて、デザインもできるから、頼みやすいのかなと思いますね。
なるほど。案外いないんですよ。イラストが描けるデザイナーさんって。じゃ、もともといた会社から発注を受けてるんですか?
そうですね。それがメインですね。でも、だんだん他の仕事が増えてきて、比率は少なくなってきてますね。僕は流れに身を任せてるだけで、会社を辞めるときも独立するつもりはなかったんです。
あ、そうなんですか。
転職しようと思ったときに、当時の上司が、「いつか独立したいと考えてるなら今すれば?」って言ってくれて。それで、金銭的な条件も交渉して、なんとか食べていけそうだったので独立することにしたんです。
そうなんですね。
自分ではイラストレーターって名乗ってるんですが、デザイン寄りのイラストレーターですね。強い作家性や絵にインパクトがあるわけじゃないと思うけど、知らない間に入り込んでいるような(笑)。
わははは。
だから、イラストレーターでもないし、グラフィックデザイナーと名乗るのも恐れ多いんです。師匠みたいなのもいなくて、独学でやってたんで、デザインだけじゃなくて、いろいろ組み合わせてやってきたんです。 でも、自分の仕事の中で、キャッチーなのはやっぱり似顔絵なので、それを中心にしながら、ロゴを作ったり、いろんなニーズに対応できるようにやってますね。
話を聞いてると完全にデザイナーですけどね。
ただ、ちょっと自分としては違うんです。デザインについて話すと長くなりそうなので、やめときましょうか(笑)。
そうですね(笑)。でも、考え方が社会で揉まれた感じが出てますね。やっぱり一度は会社組織に揉まれてみるべきなんですかねえ。
うーん。でも、本当にこれがやりたいっていうのがあったら、やればいいし、やってると思うんですよね。でも、やりたいことが分からなくて迷ってるなら、まず組織に入ったほうが、視野も広がる気がします。決して遠回りではないと思いますね。
とりあえずちょっと経験してみると。
そうですね。最初はやりたい仕事ってできないと思うんですよ。でも、まずは飛び込んでみて、その中で、やりたいことを見つけるほうが現実的ですよね。
なるほど。制約の中で、ベターを考えるんですね。それは、ちたまさんのイラストのスタンスと同じですね。
漫画の影響
そういえば、松本大洋さんが好きってどこかに書いてましたよね?
好きです。絵もストーリーも好きです。
僕も好きなんです。小さいときは絵を描いてたんですが、絵を描いてるヤツなんてモテないし、カッコ悪いと思って、全く描いてなかったんです。でも、高校のときに、松本大洋の鉄コン筋クリートを見て、カッコイイ!と思ったんです。それを見て、すげーと思って、真似してまた描くようになったんです。
カッコイイですよね。
そのうち進路を決めなきゃいけない時期が来て、やっぱり僕には絵しかないと思って。でも、絵画とか現代美術で食っていくのは難しいと思ってたんです。それで、日芸の学祭に行ったときに、グラフィックデザイナーという職業があることを知って、興味を持つようになったんです。デザイナーは会社に入れば給料がもらえるらしいぞって(笑)。
そうなんや。
自分のルーツを考えると、藤子不二雄とか鳥山明なんですね。漫画の影響がすごい大きくて、それらがミックスされて、自分のイラストのタッチが出来てる気がしますね。
見て育った漫画ですね。いまって、自分の創作活動ってしてるんですか。
してないです。いまはどういう方向に行けばいいか考えてるところです。やりながら探している感じですね。
みんな考えてますよね。ゴールがあるわけじゃないですからね。作る人ってそういうものだと思いますね。
モチベーション
タレントを描く仕事なんかなかなかできないから、みんな羨ましいと思いますよ。
でも、そういうのって麻痺しちゃうでしょ。たまに、知り合いにも言われるんです。イラストがテレビやコンビニで使われてるってすごいってね。でも、それはもう達成したことなので、改めて考えるとすごいんですけど、次の力になるかというと難しいんです。
よくも悪くも慣れちゃうのが人間なんですよね。モチベーションは難しいですね。
ですね。
僕の場合は、お客さんの喜びの声がすごい大きいですね。本当に楽しみにしてる感が伝わってきますからね。でも、吉本芸人のグッズで喜んでる人はめちゃくちゃいると思いますよ。作家まで届かないのが残念ですねえ。
昔に、ルミネの劇場の横のグッズ売り場に見に行ったことがありましたね(笑)。
わははは。
レジに持ってきてるモノをこっそり観察したり(笑)。
めちゃくちゃ売れてると思いますよ。
会社員のときは週の定例会で、何が売れているか分かったんです。でも、芸人さんのパワーってすごいから、僕の似顔絵だから売れてるのか分からないでしょ。そういうジレンマはありますね。
ああ、そうか。まあ、それは仕方ないですよね。芸人さんからの感想ってないんですか?
あっ、1回だけありました。エハラマサヒロさんが僕のイラストが好きだったみたいで、twitterでやり取りさせていただいたことがあるんです。あれは嬉しかったですね。僕は、普段は直接お客さんの声を聞いてるわけじゃないので、たまーに個人で受ける仕事は、意見をいただけるのが、すごい貴重ですね。
やっぱり直接の声はモチベーションになりますね。喜んでもらえるのが何よりも嬉しいですからね。
似顔絵業界のイメージ
実は、今回メールを頂くまで、似顔絵師の方を全く知らなかったんです。検索してもあんまりシゴトカンのような似顔絵って出てこないですよね。こういう人たちがいるんだって知って、ビックリしました。
似顔絵を描く能力と、ウェブで伝える能力は違いますからね。検索して出てくる似顔絵ってあんまりおもしろくないですよね。
はい(笑)。
その現実はもったいないでしょ。普通に検索して、すごい似顔絵がたくさん出てきたら、僕がインタビューをする必要はなくなるかもしれないですね。
僕の似顔絵のイメージは、針すなおさんとかそういう感じなんですよ。ちょっと古めかしいと言うと怒られるかもしれないですけど…。それで興味なかったんですけど、シゴトカンには、結構好きな人もいました。
それはよかった。
あのー、NIDOっていう似顔絵の雑誌がありますよね?
おお、知ってるんですか?
面識はないんですが、ネットで検索してて、たまたま編集している人のブログを見つけたことがあるんです。そしたら、「僕のイラストが気になるから、いつか取材したい」ってブログに書かれていてビックリしたんです。
狭いなあ。
2年ぐらい前なんですが、当時は、僕自身が似顔絵業界に偏見があったんです。でも、嬉しかったですね。結局、連絡はなかったですけど…。
編集してる方が出産されたから企画が止まったのかもしれないですね。ちなみに、似顔絵業界にどんな偏見があったんですか?
針すなおさん、みたいな(笑)。
ああ、なるほど(笑)。それはいつ変わったんですか?
いや、今回ですよ。シゴトカンを見て、いろんな人がいるのを知ったんです。
ああ、そうか。面白い似顔絵を描く人って案外ネットで見つけられないんですよねぇ。
席描きっていうのもシゴトカンを読んで知ったんです。普段のタッチと変えて描くんでしょ?僕は席描きの感じもそんなに好きじゃないんですが、席描きの絵を描く人が自分のタッチを持っているっていうのも知らなかったので興味深かったです。このタッチの人がこんな絵を描くんだっていう驚きと残念な感じと。自分のタッチでいったらいいと思うんですけどねえ、みたいな気持ち。
わかります。僕は席描きは別物と思ってて、似顔絵にスピードという軸をもちこまくいいと個人的には思うんです。でも、企業からの大きな仕事なんてなかなか取れないでしょ。だから、一般の人を描くことが多くなると思うんですが、目の前にして描いたらスピードが必要なのも分かるんです。 席描きはセラピーって言う人もいてそれはそれで面白いと思うんですけど、それ以外の仕事もクリエイトしていったほうがいいと思うので、そうすると、デザイナー視点とか、似せる以外のサービスを持ってたほうがいいと思いますね。
そうですね。僕もそうですけど、似てる似てないが命題になるじゃないですか。でも、漫画家さんが描いた似顔絵って、似てなくてもファンは満足できますよね。それってブランド力だと思うんですが、実力がある人でもそれがないと、高いよねってなってしまいがちじゃないですか。
そうですね。僕は、漫画家さんにもインタビューしたいんです。漫画家さんって画力があるから似顔絵を描こうと思ったら描けると思うし、商品価値はすごい高いと思うんです。そういう人たちが「似せる」の追求をしてるこの業界をどう思ってるかは聞いてみたいと思っています。
鳥山明の似顔絵を見たことあります?
あります。あれはすごい!
あんなの見たらズルいって思いますよね(笑)。千秋とかすごいでしょ。
あんなん描いてもらったらめちゃくちゃ嬉しいですよね。
でも、鳥山明にとって、千秋の似顔絵ってまかない飯みたいなモノな気がするんです。
そうかもしれないですね。
別格ですけど、ああいうブランド力って何をしても必要だとは思いますね。
そうですね。ブランド力って本当に大切と思います。しかし、NIDOの人が興味を持ってたっていうのも面白いですね。業界の価値を上げようと頑張ってる人たちですよ。
そうなんですね。
ただ、似顔絵業界って、仲間うちな雰囲気があって、僕はちょっと入りにくい。みんなすごくいい人たちだし、おもしろいし、別に閉鎖的でもないんですが。なんなんかな…、なんとなく、入りにくいんです。
ああ、なんか、常連客ばっかり入ってる小さいお店みたいな感じですか?いい雰囲気だけど入りづらいみたいな(笑)。
そういう感じかも。熱量が高いコミュニティってどうしてもそうなっちゃうんですよ。1つ感じるのは、みんな個性的な似顔絵を描くのに、褒めてるコトバしか見えなくてそれがちょっと違和感なんです。僕は好き嫌いをはっきり言ってくれる人のほうが好きだし、言っちゃうタイプだからかもしれません…。
狭い業界なんで仕方ないんでしょうね。
そうですね。だから、全然違う空気がもっと入ったらいいのになって思ってます。インタビューオファーが来たらぜひ出て下さい!
今後
いま思ったんですけど、オリジナルキャラとか作ったらいいんじゃないですか。適当に言ってますけど(笑)。
わはは。そうですね。オリジナルのがあったらいいですね。
今日作品を見せてもらって、イケそうな気はしますけどね。それか、球団とか芸能プロダクションとかグッズ化できそうな事務所に売り込んだらいいんじゃないですか?今の実績を20団体ぐらいに持っていったら、1個ぐらい決まると思いますよ(笑)。
そうですかねえ。営業とか行ったことないですよ(笑)。
わははは。大変やろね。
心臓が小さいもので(笑)。
僕も純粋な営業はやったことないんですよ。露出するのは抵抗ないですけど。風呂敷を広げず、堅実な話をしてしまうので、キャッチーではないんです。デメリットもしっかり伝えるので(笑)。
相手にしたら良心的なんでしょうけどね。
でも、堅実な話って面白くないでしょ。もし、営業スタンスあったら、SEOとか他の人より詳しい知識を売りますよ。でも、SEOなんて必要ないって思っちゃってるから、儲かりそうでも、気持ちが動かない。
自分を売り込むに対して消極的ってことですよね。
どういうことですか?
たとえばシゴトカンで、好きなイラストレーターを紹介するのっていくらでもできるんですよね。言われてる側はそんなにすごくないよって思ってるかもしれないけど。そこは自分のことじゃないし、自分はいいと思ってるから無邪気にプッシュできるんじゃないですか。
ああ、なるほど。それはありますね。
人から見たら、中谷さんもすごいですよね。って思われてるかもしれないじゃないですか。
なるほど。だから営業に向いてないんですよ。(笑)。風呂敷を広げられる人は本当にすごいと思いますよ。
プレッシャーを自分に与えて、それを超えるっていうスタイルの人もいますもんね。
いますね。あれもカッコイイですねえ。有言実行タイプ。でも、残念ながら、そんな人はあんまりいない(笑)。
確かに(笑)。ストロングスタイルってカッコイイけど、そんなの出来るのは一握りの人ですよね。成功者の本とかでも思うんですけど、成功したから言えるし、その人だからそうなだけで、それを真似しても参考にならないでしょ。凡人には凡人のやり方があると思うんですよね。
そうですね。僕も人の成功体験から学ぶことはあまりないと思いますね。リアルじゃないんです。それだったら、失敗体験のほうが聞きたいです。
個性的でありなさい、っていう本をたくさんの人が読んでるのは違和感ありますね。その時点で個性じゃない気がするんですよね(笑)。
インプットが目的になってるんですよ。いろんな考え方に触れるのはいいと思うんですけど、アウトプットとセットにしないと意味ないと僕は思ってて、ずっとインプットしてる人を見ると、いつアプトプットするの?って思うんですよね。
便秘状態ですね(笑)。
そう。僕はアウトプットしてる人と話すほうが楽しいんですよ。そういう尖ってる人たちがコラボするカタチも増えてくると思うんです。会社組織を超えてね。
チームですね。
そう。そういうのがスタンダードになると思ってるので、そのときに自分が何ができるかなって考えますね。いやー、こんな話になると思ってなかった。初めてですよ。
イラストレーターじゃなくて、フリーランスあるある、っていうのもあるでしょうね。同じ職種の話も面白いと思うんですけど、チームということを考えると、いろんなスペシャリストでやったほうが広がるかもしれないですね。
実はそういうのも考えています。フリーランスも経験して分かることがあるから、異業種との情報共有もしたいですね。似顔絵と関係ない話になってきたので終わりましょうか(笑)。今日はどうもありがとうございました。面白かったです。
(2012年12月20日(木) 渋谷のカフェにて)
あとがき
学生のときに、僕のイラストを見たイラストコンテストの審査員が僕の性格を言い当てました。絵には性格が出るそうです。今回、ちたまさんとお話させていただいて驚いたんですが、考え方に共感することがすごい多かったです。これって、イラストの描き方が似てるからでしょうか。不思議です。
僕のレベルは、ちたまさんほど高くないんですが、絵の方向性が似てるから、苦労も見えて、今回はマニアックな話になってしまったかもしれません。例えば、ロバートの似顔絵を見比べたら、僕は昔のほうが好きですけど、ポーズなどの要求が上がると変わっていくのもすごい分かります。でも、一般的には最近のほうがウケがいいのかもしれないし、大差ないのかもしれない。普通の人にどう見えるのかもう分からないです。何年も前から、吉本芸人の似顔絵はどんな人が描いてるんだろう?と思っていたので、お会いできて本当に嬉しかったですw。
NIDOの編集の人です。ブログ拝見していただき、光栄です☆また中谷さん、フォローありがとうございます!そうなんです、ちょうど2年前くらいから、個人的理由で制作を中止しています~。
またいつか再開したら、取材させていただきたいと思ってましたが、今回のインタビュー内容がとても濃いので、これ以上のお話を読者にご紹介できるかどうか…、今のところ自信がないですね^^;取材の腕が上がったら、いつかオファーさせていただきたいと思います。その時はよろしくお願いします!
ぜんごさん!コメントありがとうございます。嬉しいですw。NIDOが再開したら、是非ちたまさんをまたインタビューして下さい!似顔絵と同じで、描き手によって全然違うものになると思いますので。それにしても、NIDOが興味持つ人と僕が興味持つ人が似てるので、後を追いかけているような不思議な気分ですw。コツコツ頑張ります。
すごいちたまロケッツ好きなんですよねぇ。