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ダルビッシュ 似顔絵

中村剛 – 似顔絵は個人のロゴ!価値を広めて、もっと身近なモノにしたい!

働き方インタビュー 007 / 似顔絵マーケッター 中村剛

働き方インタビュー7人目は、似顔絵マーケッター中村剛さん。広告屋の彼がどんなことを考えて、似顔絵というビジネスに取り組んでいるか聞いてみました。

(画像の掲載許可をいただいています。)

イチローの似顔絵

中村剛 プロフィール

似顔絵マーケッター 中村剛

名古屋を拠点にビジネスする中村剛さん

東京に来られているときに、仕事前に1時間いただいてカフェで話を聞きました。中村さんはよく喋ります(笑)。1時間弱でしたが、かなりのボリュームになりましたので、気合いを入れて読んでください。 では、インタビュー開始です!

似顔絵を描くに至った経緯

ダルビッシュ 似顔絵

今日はお忙しいところありがとうございます。では、早速はじめましょう。似顔絵師の中で中村さんってちょっと特殊なポジションにいると思うんですが、どういう経歴なんですか?

僕は、今も昔も広告会社のグラフィックデザイナーで、似顔絵を1つの商品として、それを使った広告展開を考えるのが基本なんです。

プロフィールを拝見しました。広告屋なんですよね。

はい。でも、似顔絵を主軸にしたのは40才からです。それまではグラフィックデザイナーとして結構大きな仕事をしてたんです。広告賞を受賞したり、イタリアに取材に行ったり、いかにも広告屋的な仕事をやってたんです(笑)。

そうなんですか。じゃ、なんで似顔絵が軸になったんですか?

実は40才のときに、7年やっていたメインクライアントの仕事が終わったんです。お客さまから、「制作を名古屋から東京にうつすことになった」って言われたときは、ショックですごい落ち込みました。すごく頑張って、つくしてましたからね(笑)。 そのときに、自分の商品を持たないとダメだ。と思ったんです。広告屋は人の商品を売るので、自分の商品は持ってないですよね。それはそれで楽しいんですけど、売り物があったほうが強いですよね。それで、考えた売り物が似顔絵だったんです。 似顔絵は好きで、得意だったので、社内に企画書を書いたんです。その企画が通って、似顔絵倶楽部というのを会社の中に作ったんです。

会社に提案したんですか?

はい。だから、今も会社に勤めているサラリーマンで、社内ベンチャーなんです。 似顔絵倶楽部という1つの部署ができて、ちょうど10年になりました。

どういう風に提案したんですか?

コンセプトは「使える似顔絵」。似顔絵は飾るものじゃなくて、使うものだってね! 街に出ると、時々似顔絵カンバンがあるでしょ。あれがやりたかったんです。もっと似顔絵を広めたかったんです。 でも、やってみたら似顔絵カンバンは難しかったです。それで社長と相談して、似顔絵名刺で行こうってなったんです。

どうやって広げていったんですか?

自分で似顔絵名刺のサンプルを作って、知り合いに配ってたら、あるとき、「異業種交流会に行けば、いろんな人がいるからいいんじゃない。」って言われて、あちこちに行くようになったんです。それが始まりです。 似顔絵名刺を交換して、「似顔絵を使った広告プロモーションは自分のブランドが上がるし、覚えてもらえますよ!」って営業してます。 取引先は、大手の企業よりは中小零細企業が多いですね。

似顔絵名刺 中村剛

会社員ということは、収入は会社からだけなんですか?

そうです。よく「フリーになったほうがいい。」って、言われるんですが、やっぱり会社力って大きいでしょ。 組織にいたほうが、大きいビジネスができるし、リスクも回避できる。だからその力は活用すべきだと思っています。 独立したら自由かもしれないけど、やれる範囲が小さくなってしまう。 たとえば、僕はウェブはできないです。でも、会社にはいろんな人がいるから、協力すればウェブサイトだって作れるでしょ。 そういう風に判断して、サラリーマンをやってます。似顔絵を広めるためには、これが最適だと考えているんです。

なるほど。似顔絵師で、中村さんみたいな動きをしてる人っているんですか?

それは分かりませんが、僕は自分のことを似顔絵描きとあまり思ってないですね。どうやったら似顔絵が事業にできるか常に考えています。 だから、やっぱり広告屋なんでしょうね。

なるほど。

週刊朝日の似顔絵塾

白鵬 似顔絵

週刊朝日の似顔絵塾に投稿するようになったのはいつからなんですか?

ええと、似顔絵塾は30才のときに投稿をはじめました。 40才のときに、似顔絵倶楽部を作りましたが、そのときはもう投稿してなくて、実は忘れてたんです。 ただ、社内ベンチャーを立ち上げたとき、業界で僕のことを知ってる人はほとんどいなくて、それはマズイと思って、似顔絵塾の投稿を再開したんです。 でも、投稿するだけでなく、情報発信もしないといけないと思って、似顔絵塾に投稿するテーマで、似顔絵倶楽部2というブログも始めました。 週刊朝日に落ちた、通ったみたいなね。そしたら、少しずつ書き込みが増えて、認知していただくようになりました。

それは何年ですか?

2005年です。今は放置状態ですけど…。

ブログが出だしたときですね。

そうですね。「似顔絵の仕事をする」のと「自分ブランドを作る」の2つの軸で考えてました。 自分ブランドを作るために、似顔絵塾に投稿したり、ブログで情報発信しつつ、似顔絵名刺などの仕事を1つずつ積み重ねていきました。

社内で立ち上げたときは、1人ですか?

そうですね。手伝ってくれる人はいましたが、基本的に1人です。 それまでは営業なんてしなくてよかったんですが、似顔絵は案件単価が安いので数をこなさないといけない。そうすると、仕事を探さないといけないのですが、その時に気づいたんです。 「あ、おれって営業したことないから出来ないやって(笑)。」 だから、似顔絵名刺はピッタリだったんです。得意な似顔絵を描いて、ひたすら名刺交換ですよ(笑)。 あ、この名刺面白い、ってたまに反応があって、ポツポツ広がっていきましたね。この10年で似顔絵名刺は5、6000人分ぐらいは作りました。

すごい数ですね。仕事で一番多いのは名刺ですか。

はい。でも、仕事としては名刺が多いですが、実際はそれだけじゃなくて、そこから先につながる仕事も結構あります。

なるほど。それは、他の方と大きく違うところなんでしょうね。似顔絵に限らずですか?

そうですね、いろんな制作です。ホームページとかね。なんでもいいんです。そういう意味では僕は営業で、会社には制作チームはありますから。仕事をとるための武器としては似顔絵はすごくいいんですよ。安いから、誰でも買ってくれるんですよ。

ははは。確かに。営業ツールとしては安い。

はい。大きい仕事をとるために似顔絵が武器になればいいと思いますし、一方で、似顔絵だけでビジネスを成り立たせたいという気持ちも…。 それは両方あります。

なるほど。前者は組織人だから出来ることですね。今は何人でやってるんですか?

僕を入れて、3人です。そして、外に契約している人たちがいます。

似顔絵の描き方やコツ

野村忠宏 イラスト

中村さんはイラストレーターで似顔絵を書いてるんですよね?

はい。そうです。

下絵を描いて、トレースするんですか?

昔は下絵をトレースしてましたが、今は下書きは描かないです。マウスで直接描きます。

ベジェで、いきなり描くんですか?

はい。下書きをトレースするとスピードが上がらないです。だから、まずザッとマウスで書いて、あとは、写真を見ながら調整していくんです。福笑いです。

あっ、僕と一緒です。

ポジション式だと思いますが、誰に教えられたわけでもなく、根っからのポジショニストです。イラストレータは福笑いができるでしょ。ちょっと動かした瞬間に似るんです。イラストレータで描く人はそういう人が多いと思います。一発で決めるのではなくて、一番いいところで止める描き方。

変形、移動ですね(笑)。

そうです。

じゃ、席書きはどうやってするんですか?

このやり方はもちろん席書きではできないので、席書きは違う描き方になります。僕は大学のときから席書きをやってるんで、嫌いじゃないんですが、イラストレータで描く絵のほうが好きですね。

中日ドラゴンズの似顔絵名刺がキッカケ

尾木ママ 似顔絵

中日ドラゴンズさんと仕事させていただく機会があって、公式のイラストも描かせてもらってますが、それも似顔絵名刺がキッカケなんです。

そうなんですか。

似顔絵名刺を持った人が、たまたま同時期に2人ドラゴンズに行ったんです。

一緒に働いてる方ですか?

いえ、違います。僕が納品した似顔絵名刺を持ったお客様です。僕が納品する名刺には、「©似顔絵倶楽部」って入れてるので。

あっ、なるほど!お客様が営業マンになってくれるんですね。

そうなんです。だから、似顔絵名刺は僕の営業ツールでもあるんです。仕事すればするほど、僕の営業マンが増えて、これは誰が描いたの?ってなるんです。 それで、ドラゴンズに行ったお客様が、「中村さん、ドラゴンズさんが興味持ってるから売り込みに行きましょうよ!」って言ってくれるので、落合監督の似顔絵を描いて持って行ったんです。

なるほど。

それで、その似顔絵をドラゴンズの営業さんが落合監督に持っていって、気に入っていただけたようなんです。似顔絵動画も作ってたので、それがよかったのかもしれません。

パラパラ漫画ですか?

そうです。携帯のデコメなんですけど。

ああ、なるほど!

そのデコメを見て、面白いと言っていただけて、ドラゴンズさんとはそこから始まったんです。 さらに、その似顔絵を見た、ある放送局がネタを探してたので、一緒にドラゴンズの似顔絵サイトも作りました。

そうやって、広がっていったんですね。

実は、ナゴヤドームの隣にイオンがあって、ドラゴンズさんから何かいいビジネスのアイデアがないかって言われたことがあるんです。それで、「どら似っ娘」という企画書を書いたこともあります。

どんな企画なんですか?

女の子の似顔絵師集団で、ドラゴンズのユニフォームを着て似顔絵を描くんです。 描いた似顔絵にはドラゴンズの帽子をかぶせてね。そういう提案をしたら、「それ、いいね!」ってなって、「どら似っ娘」を作ったんです。今では、イオンのイベントで似顔絵を描いてます。

プロデューサーですね。

ナゴヤドームに行くと、僕が書いた似顔絵グッズがいっぱい売ってます。モノによっては飛ぶように売れていて、嬉しいですよ。やっぱり、自分の絵が商品になるのは嬉しいです。

僕はウェブサイトを作って、うまく伝えるのが得意なので、どうしてもそういう視点で物事を考えるんですが、中村さんはやっぱり広告屋さんの考え方だと思います。似顔絵単体だと単価は安いけど、大きな仕事を取るための営業ツールと考えれば、途端に売りやすくなりますね。それは、組織人だから出来るというのはあると思います。

そうですね。似顔絵名刺を営業ツールとして使うと、誰にでも会えますよ。

とりあえずお試しできる金額ですもんね。

そう。営業するのはだいたい社長さんです。彼らにとっては、お小遣いで済む金額です。 従業員に営業したらダメなんです。彼らは社内決済を取らないといけないでしょう。 それに、大きな声では言えませんが、社長さんって、従業員から上がってきたものじゃなく、自分が見つけたものをみんなにやらせたい人が多いんです(笑)。

トップダウンですね。

そう。だから社長に会える異業種交流会が僕にとっては一番いいマーケットなんですが、そこにはまだ似顔絵師がいないんです。

そうでしょうね。そういう場で営業トークできる人は少ないと思います。

だから、僕はそこにどんどん入っていくんです。年をとったので、社長さんと年齢も近くなりましたから、非常にやりやすいです(笑)。

似顔絵は個人ロゴだ!

スリムクラブ 似顔絵イラスト

中村さんの似顔絵って1人15000円で、相場より高いですよね。

はい。でも、もっと高くしようと思ってるんです。私は「使える似顔絵」はマークだと思ってるんです。マークを作るのに15000円って安すぎるでしょ。

シンボルであり、ロゴマークですね。

そう、ロゴマークなんです。「使える似顔絵」は個人ロゴです。企業にとってCI (Corporate Identity)が重要なように、個人にとっても、ブランディングが重要な時代じゃないですか。それには似顔絵が有効で、それなりにお金がかかります。でも、しっかりやってブランディングしていきましょうという感じにしていきたいんです。 でも、無名の人がこれを言っても、たとえば5万の似顔絵なんて誰も買ってくれないんです。

そうですね。

だから、市場を出来るだけ作りたいし、シェアを取りたいんです。この名刺はなんで中村の似顔絵じゃないの?って言われるぐらいにならないとダメだと思って、10年間やってきました。それだけの価値が似顔絵にはあると思っています。

素晴らしいと思います。誰かが業界価値を引き上げないと市場価値が安いほうに流れますから。

それと、もう1つ理由があって、体がキツくなってきた。もう50才だもん(笑)。

わははは。現実的には年を取ると無理が利かなくなりますからね。

スタッフを育てないといけない。

朝青龍 似顔絵

今は仕事のウエイトの中で、似顔絵はどれぐらい占めているんですか?

多いですよ。半分以上です。しかも最近はFacebookとかいろいろあって、あちこちから依頼が来るから対応できないんです。返信忘れちゃったりすると、信用がなくなるでしょ。だから、スタッフを育てないとダメだと思っています。

スタッフというのは描く似顔絵のテイストは同じなんですか?

僕が10年前から教えてますから、ある程度似せて描けます。そういう方は外にもいます。

そうなんですか。同じテイストで描くんですか?それはちょっとビックリです。

実は、今はもうスタッフのほうが僕よりたくさん似顔絵を描いてます。似顔絵倶楽部も僕じゃない似顔絵が増えてます。

そうなんですね。

でも、スタッフが時々生意気なことを言うんです(笑)。 「中村さんの似顔絵は昔は面白かったけど、今は忠実に描くので面白くないです。」

自分ではどう思うんですか?

その通りだと思います。

僕もスタッフの方と同じ意見です。特待生になった時期の似顔絵のほうが好きです。最近は、無難ですね。これは好みなので、否定してるわけじゃないですよ。僕の似顔絵もすごく無難ですし(笑)。

僕にとっての似顔絵は、趣味でもアートでもなくて、お客様が満足するマークを作ることです。要望にできるだけ応えたいので角は丸くなります。市場は似顔絵師が思う以上に過度のデフォルメを求めていません。

そうかもしれません。

目指すのは似顔絵デザイナーみたいなスタンスです。アーティストではないかな(笑)。なるべく万人に好かれる造形を考えています。

バランスだと思いますが、おっしゃってることはよく分かります。 僕が今までインタビューした人はみんなアーティスト気質で、その作品とスタンスに共感してインタビューしました。 でも、正直に告白すると、中村さんへの興味は他の方とは違います。広告屋としての動きに興味があってインタビューをお願いしたんです。 僕は副業としてやってるので、次元が違いますが、考え方は似てるので共感するポイントは多いです。

他の方のインタビューや作品を拝見させていただきましたが、みなさんはアーティストで、僕はコミュニケーターかな。 僕は単に似顔絵をもっと身近にしたいんです。一般の人が普通に持つようなものにしたいです。 でも、アーティストが強い個性を出しすぎると、一般の人が寄り付かなくなってしまうでしょ。他人事としては面白いけど、僕は描いてもらわなくていいやってね。 自分を追求する求道者ならいいけど、僕は商業デザイナーなので、やっぱり市場のニーズにはあわせようとは思います。 似顔絵の仕事を増やしていかないといけない立場だと考えているので、そのためには、やっぱり消費者を見ないといけない。

分かります。面白いと思うのは、これって似顔絵に限らず、職人的な職業に共通してるんです。自分から溢れ出す自己表現の欲求とお客様のニーズのバランスをどこに置くかは人それぞれで、正解があるわけではないですね。

似顔絵楽座はお客様が評価する大会

吉本芸人 レギュラー 似顔絵

僕は名古屋で、似顔絵楽座というのをやってるんです。似顔絵楽座は似顔絵屋の大会です。似顔絵を描いて売って、チャンピオンを決める。 コンセプトは、お客様に喜んでもらうことなんです。 僕は、お客さんに喜んでもらうことが、似顔絵を広める唯一の手段だと思っているんです。似顔絵の国際大会にISCAというものがありますが、あちらは玄人同士の切磋琢磨の場ですから、方向性が違いますね。

僕は両方参加したことはないですが、ISCAの審査員は似顔絵師でしょ。でも、似顔絵楽座の審査員はお客様なんですね。そうすると、似顔絵大会でも全く違うものになりそうですね。

そうなんです。全く別の大会だし、集まる人も別の人種なんです(笑)。

どっちがいいとか悪いじゃないですが、そこって文化が違うので、分かり合えないこともありそうですね。中村さんは、どちら側も知ってると思いますが、やっぱり全然文化が違うものなんですか?

それはやっぱり違いますよ。たとえば、売ることを最優先すると、似てなくてもカワイク描けばいいんです。そっちのほうが売れます。 でも、僕はお客様が喜んでいても、似てなかったら少し引っかかるんです。似てる上で、可愛いならいいんですけどね。あとは、本人が喜んでもらえる似顔絵が一番と思います。

本人が気に入るのは重要ですね。「使える似顔絵」はコミュニケーションのツールですから。

そうですよ。自分がイヤだと思う名刺を出したくないでしょ。だから、僕はどちらかという肖像画描きです。肖像画はお客さんに喜んでもらう絵でしょ。

ああ、肖像画ってそういう定義なんですか。僕はリアルに似せることを追求している絵かと思ってました。そうなんですか。なるほど。

ただし、もともと広告屋なので、イラストレーションとして洗練されていて、カッコいいのは追求します。

何の仕事でも、職人とマーケッターってスタンスが違うでしょ。中村さんは他の似顔絵師の人と話は合いますか?こだわってる部分が違わないですか。

違ったっていいじゃないですか。考え方やコダワリは人それぞれ。相手の考えを否定してるわけじゃないですから。

なるほど。よく分かります。僕も同じです。ベースが違うことを理解した上で、お互い尊重できた場合、すごいモノが生まれると思います。同種の人たちだけだと馴れ合いになったり、視野が狭くなる危険性もありますから。

たとえば、僕は個人的にはカリカチュア的な絵はあまり得意じゃないんですね。

わははは。実は僕はあまり興味がないです。というか、よく分からないです。

でも、だからといってカリカチュアを否定してるわけじゃないんです。人それぞれ好みがあるじゃないですか。 その人がカリカチュアが好きで、それが成立してるなら素晴らしいと思うんです。もし、カリカチュアみたいな仕事が必要になったら、アートディレクターの視点で発注します。仕事のニーズにあわせて、自分がやるべきなら自分でやるし、そうじゃないなら専門家を紹介するだけです。

そうですね。自分の好みと、ビジネスシーンにおける選択は全く別ですからね。僕もウェブサイトという領域においては全く同じ仕事をしてるので、よく分かります。適材適所の体制を作るほうがみんながハッピーになれますね。

大衆受けするものは無難なもの

スーザン・ボイル 似顔絵

一般的には無難な似顔絵のほうが受け入れられるんでしょうね。

というか、残念ながら無難なものしか受け入れられないですよ。

お金を払う人は過度なデフォルメは拒絶しますもんね。

そうですよ。街のカンバンや本の表紙で過度のデフォルメなんてないでしょ。消費者も求めてないんです。だから、表現にコダワリすぎると商売としては苦しいと思います。

すごく分かります。でも、それでもそこにこだわる職人には僕は尊敬の念があるんです。だから、少しでもマーケットが大きくしたいと思っています。

それは素晴らしいことだと思います。

気になる似顔絵師

伊集院光 イラスト

中村さんが気になる似顔絵師っているんですか?

去年、ISCAの大阪大会の審査日に行ったら、作品がたくさん並んでましてね。僕はあまりカリカチュアに興味がないので目に入ってこないんですが、その中に、イラストレーター山下良平さんの絵があって、強烈なインパクトをいただきました。あの絵はすごい!

そうなんですか。

僕なんかより断然うまいので、ライバルって言うと失礼なんですけど。すごい意識しました。他の方は、僕と違う領域のような気がして、上手でも気にならないんです。

山下良平さんチェックしてみます!

似顔絵という職業について

春風亭昇太 イラスト

最後に似顔絵師という職業をどう思いますか?

ドラゴンズみたいなグッズ制作はすごい面白いですが、有名人を描く仕事はやっぱり少ないです。だから、一般の人を描くのが基本にはなります。 我々は、デザインとかディレクションをやってたからちょっと広い目で見れますが、似顔絵師しかやった事ない人は、どうしても視野が狭くなってしまいがちで、ちょっと心配だったりもします。

それもどんな職業でもそうですね。だけど、視野が狭いからこそ追求できますし、それが強みにもなりますよね。

そうですね。だけど、似顔絵だけじゃなくて、他のことをやるのもいいと僕は思います。 学校を出て、すぐストリートで描き出すと、他の世界を知りにくくなるでしょ。 若いうちはいいんです。でも、体力が落ちてくるとしんどいです。会社を経営する道もありますが、それも誰でもなれるわけではないですから。

そういう話を他の似顔絵師の方としますか?

あまりないですねえ。若い描き手とは年齢が離れているせいかもしれませんが、私の話はこむずかしいかも…(笑)。

そうかあ。残念ですね。

僕はデザインの世界で生きてきたから、デザインの面白さは知ってるんです。 そういう意味では、僕はデザインと似顔絵のハイブリッドなんです。 でも、1つしかなかったら苦しかっただろうなと最近は思いますね。もしかしたら、若いうちは似顔絵以外にも首を突っ込むのもいいかもしれない。音楽と似顔絵とか。

なるほど、映像と似顔絵とか。

うん。若い時はそういう可能性を作ってたほうがいいかもね。

そういう話を若い人たちにしますか?

いや、やっぱりしないですね…。だって、若い子たちは何をしてるかというと、やっぱり似顔絵を描いてるんです。 画力を高めるために頑張っているんです。

なるほど。画力を高めることは必要ですからね。

そうなんです。プラスアルファがあったほうがいいですが、画力を高めることは当然必要なので、画力を高めようと頑張ってる若者にはお話するタイミングが難しいですね。

おっしゃってることは、ビジネスしてる人には普通の話ですよね。ユーザー満足度の追求とマーケット拡大、そして差別化。でも、職人として生きてる人にはその視点を重要視するのは難しいかもしれません。 やはり、自分の内から出てくるエネルギーを表現者としてカタチにしたい気持ちが大きいからだと思います。

それは自分の絵を自分で評価して、高めようとしてるわけでしょ。だけど、僕は商業デザイナーだから、やっぱりお客様ありきなんです。 お客様に喜んでもらえるために何をすべきかということをブラさない。 だから、基本は「使える似顔絵」。この絵は喜んでもらえるかな。こう展開したほうがもっと喜んでもらえるかな。そういう発想がベースです。

すごくよく分かりました。今日はありがとうございました。

(2012年2月17日 汐留)

あとがき

広告屋としての中村さんの似顔絵活動に興味があったんですが、予想通り、いや、それ以上に楽しい話が聞けました。エネルギッシュな方です! 怒濤のトークは止まらず、あっという間の1時間。お話するのは初めてでしたが、中村さんの広告屋としてのポリシーと似顔絵師としてのコダワリを感じることが出来ました。みんな違って面白いです。

自分ではアーティストではなくデザイナーとおっしゃってましたが、僕のイメージは「似顔絵を愛するプロデューサー」です。 職人とマーケッターの狭間で葛藤することもあると思います。だけど、中村さんのような人は業界には必要なので、これからも頑張っていただきたいと思います。応援しています。

今回も楽しかったです。僕がインタビューしたいのは、僕がその人の絵が好きで、本業でやってて、活動内容が面白い人!業界で有名かどうかは関係ないので、その人のプロフィールは気にしてません。

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