アドベンチャートラベルというキーワードで北海道の観光を盛り上げようとしている国土交通省北海道運輸局観光部長 水野猛さんの著書です。この本は、アドベンチャートラベルについて解説した上で、その可能性を示して、北海道での取り組みを紹介しています。
アドベンチャートラベルが難しい
本を読んで、アドベンチャートラベルという言葉について多少クリアになったけど、人に説明するのは難しい…。
アドベンチャートラベルを推進する団体ATTA(Adventure Travel Trade Association)というのがあって、そこでは、アドベンチャートラベルは「心体的活動」「自然」「異文化体験」のうち2つの要素があることと定義されています。この曖昧な定義があるだけなので、人それぞれのアドベンチャートラベルが存在するのでしょうね。
ちなみに、著者は能動的な旅でないとアドベンチャートラベルと言えないと言う。「体験」「ワクワク感」「内面の変化」「ローカルとの接点」「能動的な旅行」というキーワードがよく出てきます。明確な定義はないので、ツアーを作る人がアドベンチャートラベルというラベルをつけたらアドベンチャートラベルになるのが現状です。
なんでアドベンチャートラベルを語るのかというと、自然豊かな日本にはアドベンチャートラベルツアーを作れるポテンシャルがあるのが1つの理由。もう1つは、アドベンチャートラベルを求める冒険・体験重視の方は旅単価がすごく高いからなんです。冒険好きな富裕層のニーズをキッチリ抑えていきましょう!というのが本書の趣旨です。インバウンドビジネスのマーケティングです。
環境にやさしい旅行が人気
そのエリアの財産を生かしてニーズに合わせた環境資源を磨くことが大事。他でできない体験重視の旅行コンテンツですね。またヨーロッパの富裕層は自然、環境に対する配慮が高い方が多いことも強調してます。
たとえば、著者が参加した海外のツアーでは、食器類がすべて陶器だった一方で、日本に来た外国人の旅行の体験談に、「日本は水道水が飲めると聞いていたが、なぜホテルにペットボトルがあるのだろう?」と書かれていたエピソードがあります。よかれと思ってペットボトルを置いていたらネガティブに作用する可能性があるんですね。
近江商人の「三方よし」という考え方がありますが、いまは環境に対する配慮を含めた「四方よし」が大事だそうです。旅行にもエコが求められます。
参考として北海道での取り組みも解説しています。北海道は、スキー、食、温泉の3つで差別化しているそうです。差別化について面白かったエピソードは北海道の歴史です。
北海道の歴史が面白い
狩猟民族は食べ物を探して移動しながら生活していた。農耕が可能になってから定住するようになるんです。でも、日本の縄文時代は竪穴住居に定住しながら狩猟していて、それはすごく特徴的だそうです。狩猟のほうが栄養バランスがよく豊かだそうです。それが可能だったのは、縄文土器で貯蔵が可能だったからではないかと著者は言う。
縄文時代は弥生時代に変わっていくけど、それは本州だけで北海道は縄文時代が残る。そこにアイヌが混ざっていく。北海道は縄文とアイヌのグラデーションでガラパゴスなユニークな場所。ユニークな地域特性は真似できないから、ガラパコスは強みになる。地域の特性を知ることは大事ですね。
レイヤーの近いメンバーを集めたツアーグループを構成して、ファシリテーターやインタプリターを入れて、ワクワクする冒険要素を入れた文化体験ツアーは、顧客同士が繋がって、学びが大きい旅になる傾向が高いと思う。それは昔からあった。
だけど、アドベンチャートラベルというラベルを貼ることでマーケットを作ろうとしていると感じました。「アドベンチャートラベル」という言葉が旅行業界でジャンルとして認識され、体験型旅行を求める人が増えているのは興味深い。一方で、安全な冒険はない。いかにリスクをマネジメントして、どう体系化できるかがポイントになりそう。
この本が面白いのは、このような内容を語るのが民間企業ではなく、国土交通省の方だというところ。北海道の観光業はまだまだ伸びそう。持続可能な観光を構築することは町おこしや地方再生にも重要になってきそうです。

この本を読むキッカケになったのは函館旅行です。
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